第7回 「大きな大投手」ばかりが活躍、「小さな大投手」はいないの?(露久保孝一=産経)

▽169㌢で剛速球投げた「大投手」山口高志

 大リーグ・エンゼルスの大谷翔平が、2018年度のア・リーグ新人王に輝いた。身長193㌢の「大きな大投手」である。最近の日本の投手は、身長の高いエースが目立つ。同じ大リーグのダルビッシュ有は196㌢、岩隈久志が190㌢、田中将大188㌢などで、それぞれ大活躍している。
 日本でプレーするなかでも、阪神の藤波晋太郎は197㌢、日本ハム・石川直也は191㌢あり、一軍で勝ち星を挙げている。
 これらの投手に共通しているのは、速球派という点だ。日本史上最速の165㌔をマークした大谷を始め、全員が150㌔以上のスピードボールを投げる。 逆に身長の低い(170㌢未満)投手で、速球派はほとんどいない。つまり、大きな大投手ばかりがヒーローになり、小さな大投手は見られないのだ。
 しかし、「過去にすばらしい小さな大投手がいた」と懐かしがるファンはいる。史上最速といわれる伝説男、山口高志だ。171㌢という公表だったが、実際は169㌢であった。その小さな体から、ホームベース上で浮き上がるような超スピードボールを投げ込んだ。

▽ダイナミックなアーム型投法で主力打者を斬る

山口には次のようなエピソードがある。「背が小さいから」と東京六大学から敬遠されたこともある山口は関西大、松下電器を経て、1975(昭和50)年に阪急に入団した。
 キャンプで投球練習を受けた河村健一郎捕手は、「球を捕るのを初めて怖いと思った」と震えた。その年、日本シリーズで対戦した広島の山本浩二は、12年後でも「高志の球が一番速かった」と述べ、「初速と終速の差があまりない投手」と証言している。
 2人の話は『ベースボールマガジン2007冬季号』にも掲載されているので、記事を読んだファンもいると思う。この記者OBクラブ・ウェブにおけるシリーズ「記者座談会」第1回目で、史上最高のスピード投手として山口を挙げた記者が3人もいた。読んでいない方は、ぜひページを開いてください。
 山口の投球フォームは、中日の4番・谷沢健一が初対戦した時に「アームのような感じ」と印象を語った。アームとは、テイクバックから肘をくの字に曲げずに腕を伸ばしたまま円を描くように投げるフォームである。
 強靭な上半身から投げおろすダイナミックな投法は、まさに小さな大投手の名にふさわしい勇士であった。プロでは78年の13勝4敗がシーズン自己最多勝利で、8年間50勝の現役生活しかなかった。「もっともっと勝てたのに」と悔やむ難波ファンも多かった。

▽甲子園夏50回、100回記念は秋田旋風、山口も貢献?

2018年夏の高校野球選手権は100回記念大会だった。その半世紀前、1968年の50回記念大会に山口は神戸市立神港3年のエースとして出場している。しかし、初戦で秋田市立に2-7で敗退した。100回記念では金足農、50回大会では山口が秋田に花を持たせた?
 いまの世の中、経済生活では大型化、高度化、複雑化が進展しているが、「山椒(さんしょう)は小粒でもぴりりと辛い」ということわざ通り、小型でも大型に負けないパワー、性能をもつモノは多い。「いつか来た道」、山口みたいな小さな大投手の登場を待ちたい。(了)