第13回 神宮球場と谷津グラウンド第13回 神宮球場と谷津グラウンド

▽飛ぶように売れた破格の入場料

第2回日米野球の初戦は神宮球場である。
「さて、入場料はいくらにするか…」
幹部が集まった。この金額によって成功か否かが決まるポイントとあって、決定までに苦労したという。
ベーブ・ルースという超目玉がいる。
「少しぐらい高くても大丈夫だろう」
入場料金が発表された。
・ ネット裏指定席の4日間通し券=15円
・ 1、3塁側指定席=1日3円
・ 内野席=2円と1円50銭
 「高え!」
 関係者の中からこんな声が上がった。
「破格の値段だなあ。売れるのか…」
とも。
しかし、飛ぶように売れたのである。いかにファンが期待したかが分かる。
この入場券は企業と参画も大きかった。スポーツメーカーや菓子メーカーが抽選でファンを招待するなど、安定した収入につながった。

▽ルースの初練習に観客2万人

神宮球場の入場料は決まったものの、内実はこんな状況だった。
「神宮は本当に使えるんだろうな」

実は、文部省から出ている“野球統制令”がやっかいなハードルになっていたのである。
「使えないときはどうするんだ…」
主催者側の頭痛のタネだった。神宮球場が使用できない場合、替わりの球場を決める必要があった。
そこで手を挙げたのが京成電鉄だった。
「谷津遊園(千葉県)の中に造りましょう」
ただし、収容人数は3000人である。それでも、いざというときに役に立つ。
来日したルースの初練習がこその谷津遊園だったのは、正力松太郎の電鉄会社への感謝の気持ちだった、と語り伝えられている。
その日、谷津遊園には2万人を超えるファンが押し掛けた。
ルースは1球目をバントしたあと、2球目を右翼スタンドへ打ち込んだ。日本で初めてフルスイングでオーバーフェンスを放ったわけである。
この谷津グラウンドは神宮球場より広かった、という。
そんなのはお構いなしに、ルースをはじめルー・ゲーリッグやジミー・フォックスたちは事もなげに高く遠くへ飛ばした。日本選手があっけにとられ、ただ茫然とみていたそうである。
日本代表チームはその後、巨人軍となり、谷津グラウンドで連取に励んだ。谷津球場が巨人発祥の地と言われるゆえんだ。
第1戦は11月4日。場所は神宮球場である。(続)