ドラフト1位の口説き方-(荻野通久=日刊ゲンダイ)

▽いち早く163㌔佐々木を1位指名表明

今年のドラフトの最大の目玉と言われる岩手県大船渡高の佐々木朗希投手の甲子園出場はならなかった。7月25日、マウンドに上ることもなく、岩手県大会決勝で花巻東に負けたからだ。
 「故障の危険がある」との國保監督の判断だった。だからといって球速163キロを記録した佐々木の評価が下がることはない。日本の球団だけでなく、大リーグ球団も佐々木の将来性に注目、すでに調査を開始している球団も少なくない。
 佐々木は今後の進路について具体的な希望を明らかにしていない。だが、プロ入りして活躍すれば、メジャーのマウンドに立ちたいと考えるようになるのが自然だ。田中将大(ヤンキース)やダルビッシュ有(カブス)も入団当初は大リーグに積極的ではなかったが、結局、海を渡った。
 そんな中、日ハムがいち早く、佐々木のドラフト1位指名を宣言したのが気になる。というのもダルビッシュ有、大谷翔平(エンゼルス)とファイターズは海外FA取得を待たずに、ポスティングで2人のメジャー挑戦を認めているからだ。そこには入団時に思惑というか、駆け引きが隠されていたようだ。
 まずダルビッシュだが、入団に関してダルビッシュ側からある要求があったという。「選手は商品」という考え方からだそうで、「ドラフト指名選手の規定(最大で契約金1億円+出来高払い5000万円)に上乗せしてほしい」との話だった、と当時の球団フロント幹部から聞いた。
 日ハムは2002年、親会社が牛肉産地偽装問題で社会的な批判を受けた。そのため、コンプライアンス順守をグループ全体に徹底。球団にもその方針は浸透していた。球団は要求を拒否。さまざまな交渉の末、ダルビッシュ側が求めたのがポスティングによるメジャー挑戦許可だった。本人の意思はともかく、周辺は日ハムで活躍、メジャー移籍で大金を稼ぐ算段をしていたことになる。
 球団は了承したが、条件を付けた。1995年にポスティングで西武からレッドソックスに移籍した松坂大輔(現中日)を参考にした。松坂は入団時から8年間で108勝60敗の数字を残した。それに準じる数字を残せば認めることにした。ダルビッシュは7年間で93勝(38敗)を挙げ、2012年にポスティングでレンジャースに入団することとなった。

▽大谷二刀流は4年限定だった?

2012年のドラフトで日ハムから1位された花巻東の大谷は、プロ入りするに際し、投打の「二刀流」を認めることを入団の条件にしていた。1位指名した日ハムは栗山監督が自ら出向き、「二刀流」を認めることを伝え、入団にこぎつけた。
ただ、栗山監督も当初、いずれは投手か、あるいは野手か、どちらかに専念させるつもりだったようだ。というのも1年目に親しい人にこんな発言をしていたという。
 「4年間は二刀流をやらせる。大学に行ったと思えばいいのだから」
 栗山監督はまさかプロでも「二刀流」が通用するとは思っていなかったのかもしれない。それが早くも2年目に投手として24試合に登板し11勝4敗、防御率2.61。打者として77試合に出場し打率2割7分4厘、10本塁打、31打点と投打で活躍。4年経ったらどちらかに専念させる構想はどこかへ吹き込んでしまった。それどころか、移籍した大リーグのエンゼルスでも打って、投げての「TWO-WAY PLAYER」で昨年のア・リーグ新人王に輝いている。
 今年のドラフトで日ハムが佐々木の交渉権を獲得したら、その後、果たしてどんなドラマが待っているのだろうか。(了)