1打席の人生、代打の神様(島田健=日本経済)

[出席者」司会・島田健(日本経済)、菅谷齊(共同通信)、露久保孝一(産経)、佐藤彰雄(スポーツニッポン)、菊池順一(デイリースポーツ)、財徳健治(東京)、高田実彦(東京中日スポーツ)、山田収(報知)、荻野通久(日刊ゲンダイ)、真々田邦博(NHK)中野義男(フジテレビ)小林達彦(ニッポン放送)(敬称略、カッコ内は当時の球団名とする)
 試合を決める一打を放つのは年俸の高い主軸打者が多いのは当然だが、売り出し中の若手やレギュラーを外れたベテランが代打の切り札として活躍するのも多い。新旧の代打専門打者や、記憶に残る代打での一発に焦点を当ててみた。

▽逆転満塁サヨナラホームラン

菅 谷「 初めて代打に耳目を集めさせた選手として輝くのは巨人の樋笠一夫だ。1956年(昭和31年)3月25日の中日戦で、杉下茂に浴びせた一発は史上初の代打逆転サヨナラ満塁弾だった。しかも0ー3からでお釣りなし。まさに起死回生の本塁打だった」
露久保「 やっぱり代打で満塁弾となると大いにわきますね。本年5月29日にも巨人戦で高山俊(阪神)が満塁サヨナラホーマー。虎ファンは狂喜乱舞だった」
佐 藤「 お釣りなしとしては2本目になる01年の北川博敏(近鉄)もすごい。2-5の9回に無死満塁でオリックスの抑えの切り札・大久保勝信からホームラン。これで優勝を決めた」
真々田 「ミスタータイガースの藤村富美男は選手兼任監督時代、代打ワシや、で有名だ。56年6月の広島戦の2死満塁、三塁ベースコーチとして立ちながら自らを指名、そして逆転満塁ホームランをかっ飛ばした。これが彼の生涯最後の一発だったからさらにすごい」
菊 地「 代打満塁弾男といえば、オリックスの藤井康雄だ。01年には9月の逆転サヨナラ満塁お釣りなしを含めて3本。通算4本も最多だ」

▽代打専門の始まりは

山 田「 三原脩さんが大洋の監督時代に守備に難のある麻生実男を代打に専念させたのが始めという説がある。60年の優勝に貢献し、62年には史上3位の年間代打起用87回を記録、代打専門として初めてオールスター戦に出場した。三原マジックの一つかもしれない」
財 徳「 テレビでしか見たことがないけれど、広島に60年から15年在籍した宮川孝雄も立派な記録を残している。通算代打起用回数778と通算代打安打186はともに日本記録。72年には代打打率が4割を超え、通算代打打点118もトップだ。強いチームにいたら脚光を浴びたかもしれない」

▽神様といえば

中 野「 単年でいえばヤクルトの真中満だろう。07年の代打起用回数98、代打安打31は両方とも日本記録。本人にこの前聞いたら、これは誰も抜けない記録でしょう、と言っていた。その時は調子よかったのかと尋ねたら、98回も出れば打てますよ、というが、本来レギュラーだった選手が最後に代打に回って再び花を開かせたようだ」
島 田「 阪神には遠井吾郎に始まって、八木裕、桧山進次郎と神様が多い」
荻 野「 関西マスコミは神様を作りたがる傾向があるんでしょう。でも桧山の通算代打安打158は2位。通算代打打点でも桧山111で2位、八木98で5位、遠井96で6位と3人がランキング入りしている。それなりの根拠があるわけだ」
小 林「 阪神には川藤幸三も代打男だった。オールスター戦にも出場したけれど、“浪速の春団治”といわれて人気があったけれど、記録にはあまり残っていないね」

▽本塁打世界一

高 田「 DH制もあってパ・リーグに少し少ない気がするけれど、やっぱり代打といえば高井保弘(阪急)だろうね。通算代打起用回数559はパ1位で、右打者としてもトップだ。何より通算代打本塁打27は米メジャーリーグにもない記録だ」
山 田「 高井は本塁打しか狙っていないようなスイングをしていたけれど、27本のうち多くが勝利試合で価値のある一打が多かったと、報知の記録の神様だった宇佐美徹也さんがよく言っていた」
真々田 「74年にはオールスター戦に選ばれた。9回裏1死一塁で起用されて、松岡弘(ヤクルト)から逆転サヨナラ弾。球宴史上初の快挙をやってのけた」

▽売り出し中の若手は

島 田「代打で活躍するのはやはり、峠を過ぎたベテランが多い。ケガが多かったヤクルト・若松勉が通算代打打率3割4分9厘とトップなのは半ば当然だろう。代打で売り出してレギュラーをつかむ選手も多そうだ」
露久保「大島康徳(中日ー日本ハム)は中日時代、76年に年間代打本塁打7本の日本記録を作り、翌年から三塁の定位置を獲得した。パに移籍しても打って通算代打本塁打20は堂々の2位だ」
中 野「 最近では阪神の原口文仁だ。昨年は神様桧山に並ぶ史上3位タイの年間代打安打23を記録した。今季は病気で出遅れたものの、次第に調子を上げている。これからどう伸びていくか注目の選手だろう」(了)