「野球とともにスポーツの内と外」-(佐藤彰雄=スポーツニツポン )

◎“指導者”イチローが目指すものは

▽学生野球資格回復制度に続々とプロ選手受講

 MLB「マリナーズ」で球団会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏(46=本名・鈴木一朗氏、今年3月現役引退)が、このほど東京都内で行われた「学生野球資格回復制度」の研修会に出席したことがスポーツ新聞各紙で報じられました。
 この研修会は、プロ野球経験者が高校や大学で野球を教える資格を短期間で回復するために創設されたもので、研修会を終了して資格回復が認められれば、高校野球などの指導が可能になるというものです。
 既に今季限りでプロ野球「ヤクルト」のヘッドコーチ職を辞した宮本慎也氏(49)が、2017年に学生野球資格を回復したことを受け、東洋大野球部の指導に着手したりしています。
 イチロー氏は、12月13日から3日間に渡ったこの研修会の受講を終え、終了証を手にしましたが、それにより今後のイチロー氏の活動がにわかに注目されるところとなりました。

▽来年2月8日から活動可能

 ちなみに活動は、来年2月7日に行われる日本学生野球協会による審査を経て翌2月8日から指導が可能になるとのことです。
 アマ野球界は、例えば高校野球の投手に対する球数制限導入や過密日程の問題など、これまでの“真夏の酷使”から大きく方向転換し始めており、もし、イチロー氏がこれらの是非に関わるとしたら、豊富な経験がどんな形で指導に生かされるのか、これは興味のあることですね。
 他方…近年は指導者受難の時代でもあり、学校の部活を中心とする体育会系スポーツにあって「パワハラ」の問題など即刻批判の対象となり、その立場が極めて難しくなっています。
 以前、あるスポーツの指導者にこうしたことに関して聞いてみたことがあります。
 その指導者はこう言いました。
 「スポーツを通して本人が“何を学ぶか”ということが一番大切なのですが、そうした中で今は理不尽と批判されるタテ社会的な体育会系の指導、部活での上下関係とか礼儀や挨拶をキチンとすることなどは、むしろ体育会系の良い部分であり、日本では、ある意味、日本の土壌に根付くものとして、ずっと生きていてもいいのでは、とも思います。もちろん体罰などは論外ですが、近年はそうしたことに敏感ですぐに批判を受けるので教育者が尻込みしてしまっていますけどね」

▽学校の部活改善も

 良い部分と悪い部分があり、やはり育成に名を借りたパワハラ、体罰などがあると、良い部分も帳消しになってしまいます。
 体罰問題などが表面化して学校の体育会系指導を嫌がる青少年たちは、自由を求めて欧米型の「クラブ」での活動を選択するなど古い体質からの脱却を求めます。
 テニスの錦織圭に代表される「IMGアカデミー」へのスポーツ留学のような形は、これからどんどん増えていくのかもしれません。
 実際、世界のジュニアたちは、自らそうした環境を求め、英才教育の中に身を置くことを自分で選択しているのですね。
 イチロー氏は、この研修会受講に際して、
 「資格をとったらいろいろな意味で改善する手助けをしていきたい」
 と、提出したリポートに記したといいます。
 プロ・アマの関係や学校の部活に対する改善、あるいは“天才”イチロー氏の後継育成など“指導者”としてのイチロー氏は、どんな流儀で手腕を発揮してくれることでしょうか。
いずれにしろMLBのトップに数えられるイチロー氏の、日米28年間の現役生活で得たものの日本野球界全体への還元は、大いに意義のあることでしょう。(了)