「野球とともにスポーツの内と外」-(佐藤彰雄=スポーツニツポン)

◎鰯の頭も信心から  
▽500円のパターで
かつてプロゴルフ界で面白い出来事がありました。2001年4月に開催された男子ツアー「中日クラウンズ」での横田真一プロです。
このところ、どうもパットの調子が上がらない横田プロは、帯同キャディーが自分用に持っていたパターに目をつけました。藁(わら)にもすがる思い-。
帯同キャディーによると、この中古パターは、茨城・水戸市内のショップで見つけ「金500円なり」で購入した、とのことでした。
「オイ、ちょっと貸してくれよ」
と横田プロ。これが好感触を生みバーディー・ラッシュ。優勝には届かなかったものの、2位に入る健闘。500円(本人の出費はゼロ)が、実に賞金924万円を稼ぎ出してしまったのてす。
パターと言えば名手の青木功プロ。ブラリと立ち寄ったショップでパターを買い、シャフトが長いと切ってしまい、あの代名詞ともいえるハンドダウンの形が出来上がりました。
横田プロのケースは、どう考えても「鰯(いわし)の頭も信心から」的な出来事ですね。
▽「弘法筆を選ばず」の名手
道具を使うスポーツには、その道具の良し悪し、合う合わない、という個々のこだわりがどうしても生まれます。
では野球はどうでしょうか。
ゴルフも野球も同じでしょうが、結果に生活がかかるプロはやはり、道具はメシの種、愛用の道具には人一倍、こだわりがあるのが一般的です。
…が、その一方、前打席で愛用のバットを折ってしまった選手が、あまり馴染まない別のバットで、あるいは“ちょっと借りるよ”とチームメートのバットを借りて、タイムリー打やホームランを放ってしまうケースは時折、見られます。
これは「弘法(能書)筆を選ばず」=「文字を書くのが上手な人は筆の良し悪しを問わない」(広辞苑)ですね。
 使う道具にこだわりを見せる一方、道具の良し悪しなど問題にしない、という両面を持つのが名手です。
つまり、その道具が良くても悪くても、それ以前に道具の使い方を知っているのがプロなのですね。横田プロのケースは、フィーリングさえつかめば、どんな道具でも“打ち出の小槌”になり得る、という例ですね。
高価な高性能最新ギアも埃にまみれた無名の中古モノも、要は道具との相性の良さ、使う側が「いいね、これ」と感じる心こそが効力を生み出すのでしょう。
道具を使い、操るのは、いうまでもなく「人」なのですから…。(了)