第37回 野球小唄-(島田 健=日本経済)

◎時代の産物
▽駄洒落歌謡曲
 「王、金田、広岡、吉田」と書いて、「オウ、金だ拾おうか、よした」と読ませる。ちょっと古い世代の野球ファンなら、誰でも知っている駄洒落である。 
 これを天下の渡鳥、小林旭がレコードにしてしまったのだ。
1966年(昭和41年)発売で、一番は「プレーボール(プレーボーイ)とみんなに言われ ショート(ひょっと)したらと その気になって 町でサインしたら シュツルイ(失礼)しちゃうと どなられた」
▽金田名誉だ稲尾るが
 頬が緩む内容だが、六番はもっとすごい。
「尾崎(お先)に失礼 近藤(今度)の休み 江藤(伊東)に行くんだ 村山(うらやま)しかろ 金田(金だ)名誉だ 稲尾(居直)るけれど 愛は 小山を動かすよ」
尾崎行雄、近藤和彦、江藤慎一、村山実、金田正一、稲尾和久、小山正明といささか無理のようだが、微妙に笑わせられる。
歌詞はなんと戦後歌謡曲の代表的作詞家である星野哲郎、作曲は叶弦大のコンビだった。
▽昭和元禄
 こんな唄が出てきたのはやはり時代の影響だろう。日本は54年から73年まで高度成長時代を謳歌していた。植木等さんのスーダラ節ができたのは61年。64年ごろには福田赳夫さんが浮ついた世相を昭和元禄と名付けた。
東京オリンピックが行われた同年にできたのが、「自動車ショー歌」である。
有名になった一番は「あの娘をペット(トヨペット)に したくって ニッサン(日参)するのは パッカード(馬鹿だ) 骨のずいまでシボレー(絞られて)で 後でひじてつ クラウンさ ジャガジャガ(ジャガー)飲む ほどほど(フォード)に ここらで止めても いいコロナ(頃だ)」
おおらかな時代だった。
▽作者は同じコンビ
 「自動車ショー歌」は歌詞にいちゃもんをつけられながらもヒットして、小林旭の映画の中でも歌われた。
そこで同じ作詞家、作曲家で二匹目のドジョウを狙ったのが、野球小唄だった。星野さんもさぞ楽しんで作ったのではないか。大ヒットとはならなかったようだが、歌いやすいメロディなので、替え歌がたくさん作られた。中日バージョンとか、球団別にも作られて一部では愛唱されているそうだ。
実は同名で31年(昭和6年)にできた西条八十作詞、四谷文子唄の小唄があるらしいが、今回は調べ切れなかった。検索は「小林旭 野球小唄」(了)