第38回 マイナーリーグで31年-(島田健=日本経済)

◎自虐の唄
▽アルコールに病んだ作者、
 カントリーの革新を目指したジェイソン・モリーナ(1973=昭和48年生まれ)はソングズ:オハイアという自己のバンド名を03年にマグノリア電機会社と変えた。野球を人生に対する辛辣な比喩として使うことが多い作者と言われるが、この歌も多作ながらビッグヒットが出ない自分の想いを込めたのかもしれない。31歳の05年に発表された唄である。
09年には入院生活となり、13年にアルコールによる多臓器障害で亡くなった。まだ39歳だった。
▽大リーグに近づいてさえいない
 「僕は目つきで語ることができる 君たちの何人かは理解できないだろうし 僕はどのくらいの人が理解できるか分からない 暗闇が君に近づいてくると 君は彼と握手することになる」
英語の歌詞の出だしはさっぱり意味が分からないが、
「君はこれまで試合に勝ったことはない コーチの名前さえ知らないんだ これまでだって見上げていたものが みんな見下ろしたような目を見せる もし過去に戻れるとしても これまで登ってきた穴を見てごらん 誰も期待してなかったんだよ」
最後は「(大リーグ)に行けないと分かるまでにずいぶん時間を使ってしまった 近づくことさえできなかったのに」
▽さよならゲーム
 マイナー選手の悲哀といえば、88年公開の米国映画、「さよならゲーム」を思い出した。原題は「ブル ダーラム」である。
ケビン・コスナー演じるベテラン捕手のクラッシュ・デービスが若い投手を大リーグに昇格させる過程と恋の三角関係が演じられる。米国野球通のコラムに、この唄は暗いけれど、小さな宝石のように光るところもある。もし、20年早くリリースされていたら、この映画のサウンドトラックにも採用されていたはず、とほめてあった。
▽中継ラジオで再現
 実際にはマイナーリーグで31年なんてありえない。最初は投手だった広島の赤ゴジラこと、嶋重信外野手も打者として一軍に定着するまで10年は掛からなかった。31という数字はやはり当時の作者の年齢から来たものだろう。
だが、この唄を検索していたら「31年後の栄光」という動画が引っかった。選手ではないが、マイナーリーグ一筋で31年間、4000試合でラジオの実況中継を続けてきたアナウンサーがその功績を讃えられて、18年の八月に1試合だけ、大リーグ、レッズの中継を任された。ハイA、デイトン・ドラゴンズのトム・ニコルズ氏がその人である。
検索は「31 seasons in the minor league Jason Molina」(了)