「いつか来た記者道」(41)-(露久保 孝一=産経)

◎スポーツ見て自分がヒーローに
 夏が過ぎると「スポーツの秋」の到来である。子供たちが運動会で、一生懸命に取り組む姿が全国で見られる。しかしながら、2020年初めからの新型コロナウイルス禍が21年にもおよび、中止、延期が相次ぎ、子供ばかりか応援する親、祖父母らをがっかりさせている。
 「スポーツの秋には、青空の下で行われる運動会が最高なんだ。子供たちも見ている方も必死になる。気持ちが一体となるのだよ。その楽しみを2年も奪われちゃうんだからな」
 孫を持つおじいちゃんは、静かな校庭を見て嘆いた。その翁(おきな)は、運動会の意義をこう話す。
「運動会には、体育の授業の成果を発表する場であるという大きなメリットがある。親たちは、体育の授業を参観することはめったにないので、生徒の運動技能の状態とハッスルする姿を運動会でしか観られないのだ・・・」
 翁は、さる女性教師から、
「運動会を意識した体育の授業で生徒は大きく成長する、自己能力を鍛え団体での協調も身に付けていく」
と聞いた。見ている方の親や祖父母は、子供たちが必死で走り、投げ、踊る行動に拍手を送る。親たち自身が勇気づけられ、心が明るくなる。運動会には、こんなメリットが多くある。運動会ばかりか、他の競技を含めスポーツ観戦には特別な趣がある。人間性を豊かにするのである。
▽生かそうミラー・ニューロン効果
 運動会とは別に、子供たちには、大人に連れられていく野球観戦という楽しみがある。野球場にいけば、気分は遠足に似た楽しさがあり、父や祖父、あるいは兄弟姉妹との絆は意識しなくても深まる。球場で一緒に応援する他人に対しても仲間意識が芽ばえる。応援するチームの選手が本塁打、盗塁、美技、力投すれば、祭りの興奮みたいに感動、感激する。
 自分がヒーローになったような雄大な気持ちになる。
他人の優れた行為を見たとき、自分もその行為をしているように感じることを「ミラー・ニューロン」効果と呼ぶ。他人の動作と自分が、「ミラー(鏡)」のように同じ反応をする神経細胞(ニューロン)の働きによってできる現象で、「ものまね細胞」ともいわれている。
これは野球、サッカーなど多くのスポーツ分野ですでに活用され、上手なプレーヤーの真似をすると自分も上達していくことが実証されている。
 球場で巨人の岡本和真(おかもと・かずま)、ヤクルトの村上宗隆(むらかみ・むねたか)のホームランを観れば、少年は自分が打ったような気分になり、ロッテの佐々木朗希(ささき・ろうき)のスピードボールを目の当たりにすれば、自分も同じように速い球が投げられると感じるかもしれない。
▽高齢者の鬱予防にも効き目
 ミラー・ニューロン効果は、子供ばかりではない。翁たちにも、ありそうだ。スポーツを観戦して、ホームランや盗塁、奪三振などの瞬間にうきうき気分になり、若いころの自分の活動を思い出したり、新たなエネルギーが沸いたり、再び運動を始める気持ちになるかもしれない。
筑波大などの研究チームは、高齢者の鬱(うつ)予防にはスポーツ観戦が有効である、との調査結果を出している。球場に行かなくても、テレビやネットによる視聴でも、観戦の頻度が高い人ほど鬱のリスクは低くなっているという。 
 運動会見学とプロ野球観戦は、見て楽しむだけでなく、いろんなプラス材料がある。心身を活性化させる気分の高揚や刺激、ミラー・ニューロンによる自分の技上達への希望、健康づくりと病気予防など幅広い。コロナ禍が終息して、スポーツ観戦の素晴らしさが蘇る日は近いと思う。(続)