第49回 Old Baseball Man-(島田 健=日本経済)

◎名曲は耳に痛し
▽テレビの要請
2007(平成19)年春、フジテレビ系列は野球中継のテーマソングを人気バンドのTUBEに依頼した。作詞を担当した前田亘輝(65年生まれ)はスポーツ界に友人が多く、ギターの春畑道哉が作曲したものもいくつか同局に採用されていたからだ。
前田は「今年はおっさんの年でしょう。体がボロボロになりながら何故やるのか。けがなく1日でも長く野球を続けてほしいという思った」そうだ。頭の中には引退間近と言われていた同年代のヤクルト•古田敦也兼任監督(65年生まれ)や広島の佐々岡真司投手(67年生まれ)の姿があった。
▽リアルすぎた
歌詞の内容は前田の朗々とした歌声で救われているものの、まさに引退間近選手の心境を唄ったものだ。
「チャンピオン 何度か手にした栄光 そしてOld Man 悲鳴あげるBody 人知れず泣いてみんなの前では笑顔」「引退 背中合わせの Everyday いつもドンマイ 自分に声掛けて」「いつかピッチを去るよ その日が来るまでは So Now, Do My Best」
5月、前田が球場に持ち込んだこの曲を聞いた古田は感謝しながらも「胸が痛い歌詞が何箇所かあって、刺さってくる」と印象を語った。
▽ファンの好きな歌詞
繰り返しの「だけど OLD BASEBALL MAN どんな記録よりキミの記憶に刻まれたいんだ」はファンにとって心に残るそうだ。前田の野球に対する理解力はすごいと思わされる。それだけベテラン選手にとって耳に刺さるのだろう。いい唄だが、古田の登場曲にはならなかった。いくらいい唄でもこれでは場が盛り上がらないだろう。
▽ダブル引退試合
同年10月7日に、神宮球場で古田の現役引退試合が行なわれた。最終打席の八回には前日、広島球場で引退試合を行った佐々岡が登板した。観戦した前田は両球団の粋な計らいに感動したという。
佐々岡が「全部真っ直ぐを真ん中に投げるつもりだったけれど、球が遅すぎた」といえば、古田は「もうトロトロトロって感じ。これ引っ掛けるわと思った」と結果は遊ゴロだった。
佐々岡は相手ベンチから花束を贈られ、試合後は左翼席にサインボールを投げて東京の広島ファンに別れを告げた。ダブル引退試合といっていいだろう。 
それにしても5月に前田が作ったこの唄は二人の引退の前奏曲になってしまった。検索は「OLD BASEBALL MAN TUBE」(了)