◎殿堂落選の裏事情-(菅谷 齊=共同通信)

 日米野球界の毎年1月は「殿堂の季節」である。殿堂入りは米国が先で、日本はそれを真似た。それだけに米球界は選考結に騒がしい。
 なにしろ当選したデビッド・オルティスより、落選したロジャー・クレメンスやバリー・ボンズが焦点となったというのだから、関心の度合いは半端ではない。
 クレメンス65.2%、ボンズ68%で当選の75%に達せず。クレメンスは354勝を挙げサイ・ヤング賞7度。ボンズは最多記録の762本塁打を放ちMVP7度。オルティスは541本塁打ながら資格1年目で夢をかなえた。
 メディアがうるさい。「落選は不思議ではない」「落選は殿堂の失敗」など。
 二人は薬物調査機関に名前が載った。2007年のことなのだが、それが響いている、との話である。
 不足したのは何だったのか。現役時代の言動にも原因があったようである。
 クレメンスは問題発言が多かったし、球団に特別扱いを要求したことが明らかになり、それが足を引っ張ったらしい。
 一方のボンズ。「メディア嫌い」で有名だった。担当記者だろうが、ベテラン記者だろうが近寄せることを嫌ったという。
 その行為がブーメランのようになって襲ってきたということなのだろう。
 オルティスはその逆だった。「ビッグパピ」(偉大なお父ちゃん)の愛称で呼ばれ、記者にもファンにも人気があった。
 現役時代の評判が投票に影響するのは日本も同じだろう。
 クレメンスは言った。「殿堂入りするために投げたんじゃないさ」と。プライドなのか、負け惜しみなのか。
 前年71.1%とあと一息だったカート・シリング(216勝)は58.6%と得票が減った。原因はグラウンド外にあったらしい。トランプ前大統領の支持者が連邦議会議事堂を襲撃したことについて擁護と取れる発言をしたからだというのだ。
 口は禍の元、とはよく言ったものである。
 殿堂入りは選手の最後の願いである。大リーグでは選手紹介の頭に付く。「殿堂入りしている〇〇選手…」と。日本は最後に但し書きのように付記される。(了)