「菊とペン」(25)-(菊地 順一=デイリースポーツ)

◎どこかで見たような光景に思いは広がり…
 新型コロナウイルスの新変異株(オミクロン株)がいまだに猛威を振るっている。66歳の筆者も巣ごもり生活を強いられている。年も年だし、オミクロンなんかにやられたら家族に迷惑をかける。3回目の接種も済ませた。あとは家でジッとしていろとなるが、そうもいかない。午後になると体がウズウズ
してくる。午後3時、散歩と称して家を出て周囲を一回りする。
 密かな楽しみは公園のベンチに座っての一杯である。コンビニで缶酎ハイ(ちなみにロング缶です)とちょっとしたアテ(つまみ)を用意する。缶チューハイのプルタブを引き一気にのどに流し込む。うまい。至福のひと時である。つまみのポテトチップを開ける。
 ン?、また来たか。足元にいつのまにか鳩の群れだ。いつも思うのだが、都会の鳩は太っている。生活環境がいいのだろう。それに頭がいい。エサのありかを察知し擦り寄ってくる。
 公園の看板には「鳩にエサを与えないでください」とあるが、周囲を見渡してポテトチップを投げる。3、4歳くらいの女の子が筆者を見て、「ママ、あのおじさん…」と指を差していた。ママは慌てて女の子の顔をあさっての方向に向けた。ヤバい。どうやら、「変なおじさん」と思われたようだ。
 仲間の鳩が次々と空襲しポテチに群がる。大きな鳩が小さな鳩を突く。イジメだ。いつの間にか周囲にはおこぼれを狙って、スズメや名前を知らない鳥が参戦の構えだ。
 どこかで見た光景だな。そう、注目の取材対象に群がる、かつて筆者もその一員だった報道陣ではないか。とすると、スズメや名を知らない鳥たちは週刊誌の記者(失礼、個人的な感想です)か、はたまた野次馬か。まあ、最近は新聞が週刊誌の報道を追いかけることが多くなったが。
前述の通り、現役時代は取材対象を記者のれが二重三重になって追いかけた。王貞治監督が巨人で指揮を執っていたころだ。ナゴヤ球場での試合後、王監督とともに押しくら饅頭をしながら三塁線を歩いていると罵声、歓声と一緒に頭部へ生ぬるい汁と麺が降ってきた。名古屋名物・きしめんだった。
これも取材の一環と諦めるしかない。こう思えば腹も立たない。こうして得たコメントは妙な達成感があった。広島球場ではお好み焼きが投げ込まれた。騒然。殺伐とした雰囲気の中での取材が懐かしい。
 いまはどうか。試合後の取材はスマートになったようだし、第一現在はコロナ禍の影響で1昨年から監督コーチ、選手への取材はリモートで行われ、代表取材が多いと聞く。ダンゴ取材は禁止だ。なるほど、スポーツ紙や一般紙の運動面には同じようなコメントが掲載されている。金太郎アメのようで、整って
はいてもなぜかつまらない。
 監督や選手の顔の表情、息遣い、言葉の強弱や言い方…やはり取材は相手に対し、直に接してのものだと思う。生々しさとともに本音が透けて見えてくる。
 3月25日、2022年の日本プロ野球が開幕する。どうかその頃にはコロナ禍が下火になり、早く通常の取材に戻ってほしいと思う。監督、選手たちの直に得た感情あふれるコメントと記事が読みたい。
 夕闇迫る公園のベンチで柄にもなくこんなことが頭に浮かんだ。手元には2本目の缶酎ハイがある。鳩たちはまだいる…。(了)