第50回 ドック・エリスー(島田 健=日本経済)

◎サイケデリック
▽悪名高いノーヒッター
薬物疑惑といえば現代では筋肉増強剤など、ドーピングが代表的だが、1960-70年代のヒッピームーブメントでは大麻は序の口として幻覚剤まで使用された。
球界でも、覚醒剤などが使われたが、1945(昭和20)年生まれのドック・エリスはなんと幻覚剤のLSDを打った日に先発して、ノーヒット・ノーランを記録したとされている。70年6月12日、パドレスの旧本拠地でのダブルヘッダー第1戦、パイレーツ所属のエリスは8四球、1死球と大荒れながら最後までヒットを許さなかった。史上に残る悪名高い(infamous)ノーヒッターと言われている。
▽サインもよく見えず
引退後の84年に本人が明らかにした言葉によると、11日の移動日にロサンゼルスへ友人を訪ねて宿泊、翌日は登板日だったが、失念して正午ごろLSDを打ったそうだ。ところが、友人が気づいて急遽サンディエゴに移動、球場に着いたのは試合開始の90分前だった。
本人は「ボールが大きくなったり小さくなったりした」という状態だったが、予定通り登板した。ジェリー・メイ捕手は「サインが見えにくそうだったから、指に光るテープを巻いた」と証言した。そんな状態でよく最後まで投げられたものである。
▽LSDはもうやめた
エリスは71年のワールドシリーズでは第1戦に先発した。オールスター戦にも1回出ている。大リーグ通算は138勝119敗。チェンジアップ(シンカー)をうまく使ってゴロを打たせるなかなかの右腕だったようである。
だが、ノーヒット・ノーランの試合の内容はほとんど覚えていないそうだ。「僕の大リーグの最大の思い出を奪った」として、覚醒剤などは使い続けたようだが、LSDだけはキッパリやめたそうだ。08年に死去した。
▽サイケなアニメ
エリスを取り上げたミュージシャンは何人かいるが、一番有名なのは才気溢れた女性、バーバラ・マニングが結成したS.F.シールズの「ドック・エリス」(93年リリース)である。
彼女は49年に来日したこともあるサンフランシスコ・シールズがバンド名の由来という根っからの野球好きでもある。残っている動画はサイケデリックなアニメも使ったいわゆるとんでいる感じ。ヒッピーブームを思い出させるような雰囲気で、なかなか面白い。筆者が英語に堪能でないこともあって歌詞もとんでいるような気がする。
検索は「S.F.Seals Dock Ellis」(了)