◎制球と球速、そして球威ー(菅谷 齊=共同通信)

 「コントロール(制球)とスピード(球速)はどちらが重要か」
 投手たちの間でよく論議になるテーマである。コントロール派は「ストライクが取れなければ試合に使えない」と言うし、スピード派は「三振を取ればいい」と応じる。
 どちらも納得できる。
 スピードがあってコントロールがよければ鬼に金棒だろう。しかし、そんな投手は稀にしか出現しない。
 巨人のエースで現在コーチの桑田真澄はコントロール派の代表である。
 「私はスピードがなかったのでコントロールを重視した。そして投球の組み立てを考え、勝つことができた」
 スピードに決まっとるだろが、と言い続けたのが400勝投手の金田正一だった。
 「三振をとれば勝てる。打たせたらエラーもある。三振を取るにはスピードがなければアカンやろ」
 金田はプロ入りしたときの国鉄スワローズ(ヤクルトの前身)は、打てない、守れないという弱小チームだったので、一人で勝つ生き方をせざるを得なかった。一方、桑田は甲子園の優勝投手ということもあって、チームで勝つ知恵を身に着けていた。
 ただ金田はこうも言っている。
 「ピッチングは手品みたいなもの。スピードと球威は違う。球速を落としても球種の組み合わせで球威となって打者は打てなくなる」
 桑田と内容は同じといっていいだろう。
 スピードといえば大谷翔平がブームを起こした。165㌔を出している。大リーグでもスタンドがドッと湧く数少ない投手である。日本で注目されているのがロッテの佐々木朗希。メディアからは「令和の怪物」と呼ばれている。
 制球と球速と球威。この3点セットに厚みを加えるのが変化球である。
 エース級の投手は必ず決め球となる変化球を持っている。カーブ、スライダー、フォークボール、ツーシーム、カットボール、シンカー、チェンジアップと多種。彼らは言う。
 「その変化球を生かすのは力のあるストレート。ただ変化球を投げるだけでは抑えられないし、勝てない」 
投手は試合の80%近くのカギを握るといわれる。パズルみたいな組み合わせをして投げる投手は、やはり野球の中心であることが分かる。(了)