「大リーグ見聞録」(58)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎「チルドレン」も「二世」もいない
▽主役はあくまで選手
日本とアメリカの野球の記事をチェックしていると、気になる言葉を目にすることがある。そのひとつが「チルドレン」だ。日本の報道ではしばしば見聞きするが、アメリカでは寡聞にして知らない。
今年の日本シリーズは昨年に続いて、ヤクルトとオリックスの対戦となった。その両球団を指揮するのは高津臣吾、中島悟の両監督。ともに二軍監督を経て一軍監督に昇格した。そのためか、昨年、ヤクルトがリーグ優勝した際、高橋奎二、塩見泰隆らが「高津チルドレン」と言われた。高津監督が二軍監督時代に育て、一軍に引き上げ、活躍させたとからいう。オリックスも同様で昨年は杉本裕太郎、紅林弘太郎らが、今年は宇田川優希、阿部翔太などが「中島チルドレン」と呼ばれている。
大リーグではマイナーで実績を残してメジャーの監督に昇格するのが普通だが、「〇〇チルドレン」という言葉は知らない。もちろん、選手が成長し一人前に育つには、コーチの指導や監督の抜擢が必要だ。だが、メジャーで活躍するには本人の練習や努力、能力が第一。指導者の役割はあくまで手助けという考えだ。
「When you succeed 、we succeed」(選手たちが成功して初めて、コーチも成功する)
米球界ではよく聞くセリフだ。あくまで主体は選手なのである。
▽選手はそれぞれ個々の存在
「〇〇二世」というのもプロ野球ならではないか。5年前、早実から日ハム入りした清宮幸太郎が「王二世」と呼ばれた。同じ高校出身で左打ちのパワーヒッターであることから、王貞治同様の活躍を期待してのことだろう。「長嶋二世」や「清原二世」と騒がれた選手もいた。
「二世」は英語ではJunior。「息子」という意味だから、そもそも英語で他人に使うことはあり得ないが、それに類する単語も聞かない。今季、ヤンキースのアーロン・ジャッジが61年ぶりにロジャー・マリスの持つ、ア・リーグのシーズン最多本塁打(61)を破る62本を記録した。大谷翔平も2桁勝利2桁本塁打(14勝、37本)を達成した。これは1903年のベーブ・ルース以来の快挙だ。だが、2人をプロ野球で言うところの「二世」の類で表現することはない。
例えば、ジャッジはヤンキースの本拠地にちなんで「BRONX BOMBER」(ブロンクスの爆撃機)とニックネームをつけられた。大谷は「This is‘nt supposed to be possible」(不可能を可能にする男)などと形容されている。その選手にふさわしい称号を与えられて、評価されている。
「選手はそれぞれ個々の存在。数字や記録が似ているから、あるいはその記録を破ったからといって、選手を他の選手となぞらえてはいけない」
以前、メジャーの関係者からこう言われたのを思い出す。(了)