大リーグ ヨコから目線(荻野通久=日刊ゲンダイ)

◎試合前の練習なしでも勝つ

▽待てども松井が出て来ない

去る7月7日(日本時間6日)、エンゼルススタジアムでのエンゼルス対ドジャース戦で、試合前にエンゼルスが試合前の練習を取りやめたことが話題になった。 
 エンゼルスは前日までシアトルでマリナーズと対戦。ナイター終了後にチャーター機で地元のロサンゼルスに戻ったのは朝3時。当日は最高気温45度、試合開始前でも42度だったというから、選手の疲労を考慮して、ソーシア監督が決断したのだろう。
 筆者もメジャーリーグで一度、試合前の練習休みに出くわしたことがある。2012年7月9日、クリーブランド・インディアンスの本拠地アグレッシブ・フィールドでのインディアンス対レイズ戦だ。
 当時、松井秀喜がレイズに所属していたので、カンザスシティ・ロイヤルズの本拠地カウフマン・スタジアムでのオールスター戦の取材の前に、クリーブランドに寄った。
 インディアンスの練習が終わり、レイズの練習時間になった。グラウンドで松井が出て来るのを待っていたが、5分経っても10分経っても出てこない。
 松井は7月3日のタイガース戦の試合中に左太ももを痛めていた。全力で走れないため、その後の試合は欠場か代打での登場だった。まだ万全ではないのか、と思っていたが、やがて気がついた。
 松井どころかレイズの選手はだれ一人、グラウンドに現れないのである。そういえば担当記者諸氏もベンチにいない。レイズのスタッフを見つけて聞くと、「マドン監督の考えで試合前の練習を休みにした」とのこと。

▽「疲労回復」と「気分転換」 

レイズは6月30日からの連戦中。6月29日は休みだったが、その前は11連戦だった。
 メジャーリーグでは15連戦や20連戦も珍しくない。試合は週末のデーゲーム。確かに暑かったが試合はオールスターゲーム(12日)の直前。ほとんどの選手はすぐに休みに入れる。
 当時、レイズはア・リーグ東地区で首位ヤンキースと7ゲーム差の3位。追いかける立場だったが、随分、思い切った判断だと思った。
 概してメジャーの監督、コーチは練習に対して日本の監督と考え方が異なるようだ。ロッテで指揮を執ったボビー・バレンタイン監督も「練習を1日休んだからといって影響なんかない」とよく言っていた。
 かつてドジャースのキャンプに参加したことのある巨人の選手はノックするメジャーのコーチから、ふた言目には「疲れていないか?」と聞かれたそうだ。疲れていては練習に身が入らないし、ケガにもつながるから、というのがその理由だという。
 マドン、ソーシア両監督もそうした考えの持ち主なのだろう。メジャーリーグでは、長い連戦、長距離移動は普通だ。選手の負担を考えて試合前の練習取りやめはそれほど珍しいことではないのかも知れない。

▽勝てないから気分転換で休み

ちなみに日本のプロ野球でも試合前に敢えて練習をやらなかったチームがあると聞いた。詳しい日時は定かではないが、1976年から2年間、鬼頭政一監督が率いた太平洋ライオンズ(現西武)だ。
 後年、福岡で鬼頭さん(当時は野球評論家)にたまたまお会いしたとき、その理由を伺ったことがある。鬼頭さんは「あんまり勝てないので気分転換だったよ」と笑っておられた。
 その試合で太平洋が勝ったかどうかは忘れてしまったが、試合前練習なしでレイズはインディアンスに7-6で勝ち、エンゼルスも3-2でドジャースに勝利している。(了)