第14回 大人気、開幕戦は左翼ルース -プロ野球の歴史(菅谷 齊=共同通信)

▽押し掛けたファン、開門1時間半も早まる

1934年11月4日、神宮球場。ベーブ・ルースを迎えた第2回日米野球は、いよいよ第1戦を迎えた。
 人気のほどは、どうだったのか。
 はっきり、すごかった。ルースという大看板の威力は、計り知れないものだった。メディアのPRがあったにせよ、主催者は想像をはるかに超えるファンの注目度に目をむくしかなかった。
 早朝からファンが球場に詰めかけた。
 「詰めかけた、というより、押し掛けた、という感じだった」
 そんな話が伝わっている。
 開門は午前10時の予定だった。列を作る人波がどんどん長くなるのを見て、主催者は1時間30分繰り上げ、8時30分に入口を開いた。開門を知らせるサイレンが高らかに鳴った。
 9時過ぎには、内外野とも観客で埋まった、という。ファンが球場入口を通過すると同時に、駆け足で階段を上がり、座席に向かって行った光景が目に浮かぶようである。
 

▽日系のジミー、4番で先発出場

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メンバーが発表された。
―先攻・全日本-
① 三塁手 牧野 直隆(慶応大)
② 遊撃手 苅田 久徳(法政大)
③ 二塁手 三原 修 (早稲田大)
④ 中堅手 堀尾 文人(ロサンゼルス日本)
⑤ 一塁手 山下 実 (慶応大)
⑥ 右翼手 矢島 粂安(早稲田大)
⑦ 左翼手 夫馬 勇 (早稲田大)
⑧ 捕 手 久慈 次郎(函館オーシャン、早稲田大出)
⑨ 投 手 伊達 正男(早稲田大)
―後攻・大リーグ選抜―
① 遊撃手 エリック・マクネアー(フィラデルフィア・アスレチックス)
② 二塁手 チャーリー・ゲリンジャー(デトロイト・タイガース)
③ 左翼手 ベーブ・ルース(ニューヨーク・ヤンキース)
④ 一塁手 ルー・ゲーリッグ(ニューヨーク・ヤンキース)
⑤ 三塁手 ジミー・フォックス(フィラデルフィア・アスレチックス)
⑥ 中堅手 アール・エビレル(クリーブランド・インディアンス)
⑦ 右翼手 ビング・ミラー(フィラデルフィア・アスレチックス)
⑧ 捕 手 フランキー・ヘイズ(フィラデルフィア・アスレチックス)
⑨ 投 手 ジョー・キャスカレラ(フィラデルフィア・アスレチックス)

全日本は、東京六大学OBで編成された東京倶楽部を中心に組まれた。この東京倶楽部は、当時の最高峰である都市対抗で連覇するなど、最強チームとして知られ、が学生選手のあこがれのチームだった。
 そんな中で4番に抜擢されたのは、米国から売り込んで実力を認められた日系のジミー堀尾である。
その前を打つ三原は、のちプロ野球の監督として名将、魔術師といわれた。1番の牧野は高校野球連盟会長を務めることになる。5番の山下はその長打力から「ベーブ山下」の異名を持つ。
 バッテリーの伊達、久慈は「当代一」として君臨していた。
 大リーグ選抜は、ア・リーグ三冠王の4番ゲーリッグ(打率3割6分3厘、49本塁打、165打点)を含め、この年のクリーンアップ・トリオで計115本塁打、425打点をマークした。2番のゲーリンジャーは214安打でア最多安打である。
 アスレチックスの本拠地は今、カリフォルニア州サンフランシスコの対岸にあるオークランドだが、当時はフィラデルフィアで、のちにカンザスシティに移り、現在に至っている。
 ルースが左翼の守備に就き、プレーボールとなった。(続)