「大リーグ ヨコから目線」(16)-(荻野通久=日刊ゲンダイ)

▽日本人内野手は絶滅危惧種?

去る3月21日、東京ドームでのアスレチックス戦との開幕カードを最後にマリナーズのイチローが正式に現役を引退した。これで野手の日本人大リーガーは1人もいなくなった。
 残るは田中(ヤンキース)、ダルビッシュ(カブス)、前田(ドジャース)、菊池(マリナーズ)、平野(ダイヤモンドバックス)の投手と二刀流の大谷(エンゼルス)だけである。マイナーリーグでも牧田(パドレス)、田沢(レッドソックス)といずれもピッチャーだ。
 今後もプロ野球からメジャーに行く選手は出てくるだろうが、こと内野手に関してはほとんど期待できないだろう。
 最近の報道によれば、プロ野球でメジャー移籍を考えているのは菅野(巨人)、則本(楽天)、千賀、柳田(ともにソフトバンク)、筒香(DeNA),鈴木(広島)、西川(日ハム)などだそうだ。菅野と則本、千賀は投手、残る4人は外野手である。
 外野手もイチロー以外はここ数年いなかったが、日本人の内野手は2010年に岩村明憲(元ヤクルト、現独立リーグ福島監督)がアスレチックスを退団して以来、1人もいない。メジャーの評価が低いことと無関係ではないだろう。

▽2010年の岩村が最後

日本の内野手が評価されないことに関して、かつてメジャーのスカウトにこんな話を聞いたことがある。
 石井琢朗(現ヤクルトコーチ)が横浜(現DeNA)の遊撃手としてバリバリ働いていたころだ。そのスカウトは石井の広い守備範囲、肩の強さ、俊足に注目し、FA資格を得たときには獲得を球団に働きかけるつもりだったという。
 ところがFA資格取得が近づくにつれ、石井の評価が下がってきた。フットワークが衰え、守備範囲も狭くなり、内野手としての動きが鈍くなったからだという。
 当時の石井は30歳前後。年齢からみて、急に身体能力が落ちるのは考えにくい。大きなケガもない。いろいろと分析した結果、結局、そのスカウトは人工芝に原因を求めた。長い間、人工芝でプレーしたため、膝と腰に負担がかかり、それが動きの鈍さに表れてきたと。
 元西武の松井稼頭央(現西武二軍監督)元ロッテの西岡剛(現独立リーグ栃木)といえば、プロ野球では抜群の身体能力、センスの塊と評価された遊撃手。ロッテの二軍監督として、若き日の西岡(大阪桐蔭からドラフト1位でロッテ)を知る古賀英彦は以前、筆者にこう話していた。
 「二軍の試合で西岡にスクイズのサインをだした。大きく外され、失敗した、と思ったが、西岡はジャンプして飛びつき、バットにボールを当ててきっちりとスクイズを決めた。素晴らしい反射神経、身体能力の持ち主だった」

▽俊敏性とパワーアップの壁

その西岡もケガもあって、メジャーでプレーしたのは2年間だけ。松井は7年間プレーしたが、遊撃手では通用せず二塁を守ることが多く、一度も規定打席に達することはなかった。
 20代後半の伸び盛りと思われたときにメジャーに移籍しても、すでにピークは過ぎている。あるいは伸びシロは少ないと日本人内野手は見られているようだ。
 G・G佐藤といえば、西武でクリーンアップを打ち、北京五輪の野球日本代表にも選ばれた選手。法大ではショートを守り、大学卒業後にフィリーズのマイナーリーグでプレーした。ところがたった3日で遊撃手をお払い箱になったそうだ。
 「中南米出身の選手は守備で逆立ちしたって敵わないような、俊敏な動きをする」というのがその理由だったという。佐藤は肩の強さを買われて捕手にコンバートされ、力を付けて西武のテストを受け、プロ野球で活路を見出した。
 近年はメジャーでも選手の大型化、パワーアップが進み、かつては守備だけでも評価された二塁手や遊撃手でもその傾向が強い。昨年のシルバースラッガー賞(打撃のベストナイン)でもア・リーグの遊撃手リンドア(インディアンズ)、ナ・リーグの二塁手エバス(カブス)、遊撃手ストーリー(ロッキーズ)はいずれも30本以上のホームランを打ち、100打点前後を記録するパワーヒッターだ。大リーグで日本人の内野手が復帰するのは絶望的になってきている。(了)