「いつか来た記者道」(14)-(露久保孝一=産経)
◎高校生が杉下のフォークを投げる日
元プロ野球選手や監督が、高校、大学で指導者となっているケースは、増えている。昭和時代は、プロがアマに教えることは御法度であり、指導者になるなんて考えられなかった。ところが、最近は、プロ選手が歓迎されているのである。時代は大きく変わった、のだ。
「フォークボール神様」の杉下茂さん、「鋭く落ちるカーブ」の堀内恒夫さん、「ホームランキング」の門田博光さんが、高校、大学での指導者をめざしチャレンジしている。
野球殿堂入りしたプロ経験者が高校、大学の指導資格を簡略化した手続きで回復を得ることが特例で可能となり、その認定を受けるために、杉下さんら3人は2019年6月5日、東京都内で面談に臨んだ。その面談を受けて、日本学生野球協会は同月18日、杉下さん、堀内さん、門田さんの高校、大学生への指導に必要な学生野球資格回復の審査を行ない、資格を回復した。
▽年をとっても野球情熱は変わらず
93歳になった元中日の杉下さんは、史上最高齢で資格回復を得た。杉下さんは、元巨人の堀内さん(71)、元ダイエー(現ソフトバンク)の門田さん(71)とともに、同協会にリポートを提出し認定された。
5日に面談を受けた元ヤクルト監督の野村克也さんと元阪急(現オリックス)の福本豊さんは、リポートを提出しなかったため承認はされなかった。
認定書を手にした杉下、堀内さんらは、どこの学校で指導を行うのか、特に杉下さんの魔球的フォークボールを教える姿を見たいものである。
元プロ選手の学生野球資格回復の制度が2019年1月から変わった。プロ・アマの研修を修了し、認定されれば、母校に限らず、どの高校でも指導が可能となった。これまでは、2年以上の学校勤務が必要だったが、大幅に緩和された。教員の免許がなくても監督に就任できる。
▽甲子園で元プロ選手監督として初勝利
すでに、いくつかの高校で元プロ選手の監督や指導者が誕生している。
中日で投手として経験した若林弘泰さんは、東京の東海大菅生高で社会科教諭と野球部監督の二刀流をこなし指導。2017年夏に西東京大会で優勝した。
九州国際大附高の監督を務める楠城徹さんは2015年夏、元プロ(西武)選手の指導者として、初めて甲子園で勝利を挙げた。
他にも、元ヤクルトの松岡弘さん、元ロッテの小宮山悟さんらが学生野球の指導者として活躍している。
プロとアマの関係は、プロがアマに加入して問題になった1961年の柳川事件のため、両者の関係は絶縁状態の時代があった。それが、現在は蜜月状態にある。
学校では、「プロ選手が入ると野球学校になり、本来の教育が疎かになる」という声も出ているという。その課題は残るにしても、杉下、堀内、門田氏らの「魔球」「豪打」監督の誕生を待つファンも多いのではないか。(了)