「大リーグ ヨコから目線」(28)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎カネと欲望絡んで二転三転の開幕事情
▽最大の資金源がストップ
 大リーグの開幕が二転三転、大幅に遅れている。
新型コロナウイルスの全米拡大で3月26日の開幕が延期。当初はアリゾナ州のフェニックス周辺に30球団を集めて開幕。その後、アリゾナ州、フロリダ州に2か所で15チームずつ集めて5月スタート案が浮上。4月末になってテキサス州を含めた3か所での開催が検討されている。それぞれにドーム球場があり、1日で複数の試合が行われるから、試合がかなり消化できるのがメリットという。
当初、アリゾナ州での開幕を聞いたときは、信じられなかった。ダイヤモンドバックス本拠地チェイスフィールドの他にもキャンプで使う球場が多くあるので、30チームが集まっても試合はできるといわれていたが、アリゾナの暑さは半端ではない。
私は2011年7月初め、フェニックスのチェイスフィールドでのオールスター戦の取材に行ったが、昼間、球場の外では一時もミネラルウオーターのボトルを手放せなかった。湿気こそ少ないが、肌を刺す日差しは強烈。ジッとしていても汗が流れ、立っているだけでつらい。
1か所で30球団が集まって試合となれば、デーゲームも避けられない。とても試合などできないと思っていたら、ドーム球場のある3州案が出てきた。
感染拡大にかかわらず、大リーグ機構も球団経営者も一日も早く、開幕したいのが本音だ。ゲームがなければ最大の資金源である放映権が入ってこない。 
大リーグ機構は2014年からスポーツ専門局ESPNなどと年平均約15億ドル(約1500億円)の8年契約をしている。単純計算すれば、1球団当たり約5000万ドル(約50億円)。これはあくまでMLBが結ぶ全国放送の放映権料。各球団は地元局にも全国中継以外の試合の放送権を売っている。その分の収入もなくなってしまう。どんな形でもいいから、試合を始めたいのである。プレーボールがかからなければ入場料も入ってこない。
▽強いられる禁欲生活
アリゾナ、フロリダ、テキサス州の知事はいずれも共和党。開幕させれば経済活動を早く再開し、秋の大統領選で再選を狙うトランプ大統領の援護射撃にもなる。
昔から球団経営者には共和党支持者が多いといわれる。共和党のニクソン大統領に不正献金をして逮捕されたヤンキースのジョージ・スタインブレナー(故人)がその代表だ。マンフレッド・コミッショナーも度々、トランプ大統領と連絡を取っているという。
ただ、アメリカは感染者98万8469人、死者5万6253人はともに世界最多(4月28日現在=ジョンズ・ホプキンズ大調べ)。だからだろう、トランプ政権にもアドバイスしている、アメリカ国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は集中開催に反対。どうしても実施するには「無観客試合、選手はホテルと球場の往復のみ、全選手に週1度の抗体検査」を条件としている。
プロ野球では試合終了後、ビジターチームの選手はバスで揃ってホテルに戻る。メジャーでも試合後、ホテルへのバスが用意されているが、乗らない選手もいる。私も試合後、タクシーで夜の街に消えた首脳陣や選手を目撃している。
酒か女かギャンブルか、いずれにしろ門限などないから、たまにはストレス発散に出かけても不思議ではない。若くて、体力もカネもあるメジャーリーガーが何週間も、何か月もホテルと球場の往復だけの禁欲生活を強いられるのだ。とてもすんなり飲むとは思えない。
エンゼルスの主砲マイク・トラウトは米NBCスポーツの4月15日のインタビューでこう話している。
「1日も早い開幕を望んでいるが、(ホテルと球場の往復だけの生活で隔離され)家族はどうするのか?8月には第一子が生まれる予定だ。会いにも行けないのか」
 開幕には選手会の同意も必要だ。早くても6月末か7月初旬と言われるが、金銭的、政治的、そして個人的な思惑や事情も絡んで、コロナウイルス感染下の開幕の見通しはなかなかつかない。(了)