「セ・リーグDH採用で球界が変わる?」-(山田 收=報知)
第12回 DH制反対論は根強い
5回にわたってセ・リーグの「DH制反対論」の源流を探ってきた。その流れは現在でも脈々と受け継がれている。以前紹介した1973年2月のセ監督会議でDH制採用に強硬に反対していたのが巨人・川上哲治監督。かの名将がなし遂げた9年連続日本一は、9人制野球の金字塔である。また、この偉業が、パにDH制を導入させた、という見方もある。そのV9のエース・堀内恒夫が、かつてブログで反対論を展開している。
「時代の流れとともに、いろいろ変化している」と述べた上で「不変と言えるもの、伝統や守っていくものがある」とし、“野球の原点”を残したいと力説している。それこそが「投手は9人目の野手」という野球の原点だ。投手は投げるだけではなく、打撃も守備も走塁もこなすから、投げる専門になるDHには反対だという。第9回で紹介したセ・リーグ文書にある反対根拠①と同じだ。
1967年にノーヒットノーランを達成した試合で3打席連続本塁打をかっとばした堀内なればこそ、ファンも納得するのではと思ってしまう。ただしこんな男そうはいない。
DH制では、観客だけでなく監督の楽しみが失われてしまう、という独特の論理を展開した人物がいる。現在に最も近い阪神優勝監督(2005年)の岡田彰布だ。あるインタビューに答えて「DHを使っているときは、客が沸かない。代打の神様みたいのがいない」「投手の打席をどうするか、代打を出すのか。監督の醍醐味がなくなる」と語っている。これは拙稿の第10回で述べた、セ反対論の②に該当する。DH制では野手に代打を出すわけで、当然、セに比べれば代打起用回数は減る。
2020年で言えば、セでは全体の代打打席数は1589。6球団中最も多かったのがヤクルトで339。最少は中日で224だった。パは合計765。最多がロッテで162。最小が西武のわずか76だ。代打起用などの戦術に面白みを感じる向きには、岡田理論は一定の理解が得られるかもしれない。
投手への代打起用をはじめとする監督手腕への影響を口にする人は多い。あるセ・リーグ監督経験者は、昨今のDH採用への動きについて「投手が打席に立つことで、代打が複数必要になるし、継投の機会も増える。野球の本質がDH制にはない」と糾弾。「打つだけの選手が救われて、選手起用の幅が広がるかは疑問」と9人野球へのこだわりを口にしている。
原理主義的な反対論が根強いことが分かったが、次回はDH制採用による影響を軸に考えていきたい。(続)