第44回「サブウェイ」-(島田 健=日本経済)
◎夢は叶う
▽昔は当たり前
米大リーグでサブウェイ(地下鉄)・シリーズといえば、本来はニューヨークに本拠地のあるチーム同士が対戦するワールドシリーズだが、最近ではヤンキースとメッツの交流戦の名前として使われている。
ワールドシリーズで両チームの対戦は2000(平成12)年の一回しかないが、昔は当たり前だった。1940、50年代でなんと8回もあったのである。
ア・リーグのヤンキースは変わらないが、ナ・リーグにニューヨーク・ジャイアンツ、ブルックリン・ドジャースと両リーグ計3チームも強豪が揃っていたからだ。
▽2チームの移動で激減
ところが、58年にジャイアンツはサンフランシスコ、ドジャースはロサンゼルスと西海岸に本拠地を移してからは、しばらくパッタリ途絶えた。
62年、大リーグ拡張に伴って、ニューヨークにメッツが誕生したが、勝てばミラクルと言われるチームぶり。2000年までに何度かワールドシリーズに駒を進めたが、その時はヤンキースが勝ち抜けなかった。
▽父の言葉で往時を懐かしむ
ピアノの弾き語りもするジム・ヌッツオは90年代初めにこの唄を作った。
「父が過ぎ去りし日々を語ってくれたのを思いだす (ドジャースに本拠地の)エベッツ・フィールズや(ジャイアンツの本拠地の)ポロ・グラウンド。選手でいえば(黒人選手第一号の)ジャッキー・ロビンソンに、その一打が世界を変えたと言われるボビー・トムソン(ジャイアンツ)。(ワールドシリーズで唯一の)完全試合を成し遂げたドン・ラーセン(ヤンキース) でも父はもうそんなことはあり得ないと最後に言った」
▽44年ぶりに再現
唄の繰り返しは現在に戻り、
「僕は今夜、地下鉄に乗っている そう球場を目指してね 街は大騒ぎになる 君はホットドッグの匂いを感じるしビールだって味わえる 昔に戻るんだ 今夜のチケットは売ったりしない 今地下鉄に乗っているところ」
昔の再現を願ってのことだが、唄を発表してから数年後の2000年に夢が実現してしまった。作者冥利に尽きるところだろう。ラジオやテレビでオンエアが続いた。シリーズが始まる前に、どちらのチームを応援しますか、と聞かれて、
「どちらもいつも出て欲しいね。それより、シリーズが長引けばそれだけ僕の曲が放送されるわけだから、最終戦まで行って欲しい」
と応じたそうだ。試合は残念ながら4勝1敗でヤンキースに軍配が上がった。検索は「 Jim Nuzzo Subway」(了)