◎不信監督が震える初秋の風-(菅谷 齊=共同通信)

8月、9月は日本球界にとって、最も関心の深い季節である。
真夏の8月は高校野球の甲子園大会。40度近い高温のなかで戦う。「感動のイベント」と、多くのファンがとらえている。
プロ野球はちょっと異なる。ペナントレースの行方を決める重要な時期なのだが、全チームが優勝の可能性を持っているわけではない。およそ半分のチームが優勝の可能性を失う。熱い戦いと真逆の世界が出現する。
下位球団は、来シーズンの戦力に手を打ち始める季節でもある。
そして9月。初秋である。Bクラスの監督さんは、周りは残暑で汗を拭いているのに対し、首筋にヒヤリ、とした風を感じる。「クビ」という冷ややかな風を、だ。
12球団の指揮官が全員無事に来シーズンを迎えることは滅多にない。1人や2人は交代する。契約終了か、成績不遜の責任か、はともかく。深刻なのは後者のケースで、周囲の人たちが音もなくスーっと離れていく。それを目ざとく察しする報道陣が人事に焦点を当てていく。
かつて契約途中で監督を終われた方の話。
「8月、そう真夏にBクラスだった。フロントの対応が変わった。よそよそしいんだな。私の場合、前年も成績が悪かったから。監督2年目だったが、3年契約だったからクビはないだろうと思っていたら、シーズンが終わったら本社に呼び出されて、お引き取り願いたい、と」
この方、スター選手として知られた存在だった。
監督に招へいされるときは選手時代の成績がポイントなのだが、監督を切られるときは、何の役にも立たない。それどころか、次の就職先を探しに行くことになる。7月は“真夏の祭典”ことオールスター戦。それが8月に“寒い風”が吹きはじめ、9月になると“冷たい風”を受ける。プロ野球界の気候変動は激しく慌ただしい。
付け加えると、一方でユニホームを脱いでいる解説者、評論家の先生方は、監督交代でコーチ陣も代わるから、就活にいそしむ。これもプロ野球界の風物詩である。(了)