「いつか来た記者道」(45)-(露久保孝一=産経)
◎ドカベンスタジアムから次代のスター
昭和後半から平成にかけ、少年少女から大人まで絶大な人気を誇った野球漫画があった。「ドカベン」「野球狂いの詩(うた)」「あぶさん」など、漫画家の水島新司さんの大ヒットシリーズである。水島さんは2022年1月10日、肺炎のため東京都内の病院で死去した。82歳だった。
数多い作品のなかで、「ドカベン」は1972年から81年まで週刊少年チャンピオンに連載された青春野球物語である。主人公のドカベン・山田太郎は、4番を打つ強肩の捕手で、高打率をマークするスラッガーであった。山田が学校へ持ってくる大きな弁当を見て、仲間がドカベンと呼んだ。
山田とバッテリーを組む里中智はアンダースローの好投手だ。彼らを中心に個性豊かな選手たちが甲子園をめざして戦った。校名の「明訓」は、新潟出身の水島さんがあこがれていた新潟明訓高がモデルとなっている。
▽水島さんの野球への情熱が2つの像に
しかしながら、明訓高は漫画ストーリーのなかでは、神奈川県にある私立高となっている。同県大和市には、「ドカベンスタジアム」と愛称のついた球場があり、「ドカベン」の2つのブロンズ像が「花を添えて」いる。正式野球場名である「大和スタジアム」には、球場の外側に豪快なスイングをする山田太郎と下手投げの里中智のブロンズ像が、97年にそれぞれ建てられた。山田の像は、両足を広げて低く構えた左打ちから球をとらえようとする瞬間を表している。里中は、身体をしならせて地面すれすれに渾身の投球する姿だ。
ここでは、高校野球神奈川大会もおこなわれている。試合に臨む球児たちは2人の像を見て刺激を受け、「大きなエネルギーをもらった」などとハッスルしているという。
球児のなかには、山田、里中らにあこがれて練習に励み、のちにプロ野球選手になった者も多いという。同球場は96年、国体で使用するため当時の引地台(ひきちだい)野球場を全面改修した。当時、「ドカベン」が県内の高校を舞台にして高い人気を得ていたことから、大和市は選手のブロンズ像の設置を計画、水島さんの協力を得て実現した。翌年7月の除幕式には水島さんが出席して、ドカベンのスタジアムが誕生したのである。(続)