第51回 サヨナラホームラン(島田 健=日本経済)

◎希望の象徴
▽脱サラの苦労人
1966(昭和41)年生まれのシンガーソングライター、スガシカオは大学を出て4年間サラリーマンをした後、音楽界を目指した。当初は苦戦の連続で、おかずがないのでご飯に胃薬を掛けて食べた事もあると語っている。
SMAPに詞を提供した「夜空ノムコウ」が大ヒットして全国的知名度を得た。曲を作ってから、作詞するタイプで、しかも酒を飲んでから作るそうだ。理由は素面だと自分を守ろうとして、カッコをつけすぎてしまうからだそう。だから、比喩をきかした詞もある一方、直球のように胸にグサリとくる詞も多い。
▽挫折の唄
2010年リリースのこの唄のテーマは野球ではない。うまくいかない時のやるせなさが主題である。「何も手につかずに 夜の八時 ぼうっと見てるテレビ “おれ、この先どうしよう…“」
「明日が見えないから カーテンは閉めたまま とっくに気づいているよ このままじゃダメなこと」
実に暗いし、胸に痛い詞である。だが、この2つのフレーズの後に来るのが「誰かが打ったツーランホームラン」「9回裏まさかの 逆転サヨナラホームラン」なのである。
▽何かいいことが
スガシカオは05年の夏の高校野球で朝日放送(ABC)にテーマ曲とダイジェスト番組、熱闘甲子園のエンディング曲を提供しているが、実は詞には野球に直接結びつく言葉がない。
しかし、この唄ではホームランという用語を実に有効的に使っている。絶望的な状況にあって何か光明になるかもしれない出来事、として出てくるのである。この唄を心に痛い曲というファンがいる一方、「打ちひしがれた時に、何か元気をもらえる」という音楽ファンもいる。
▽ウクライナにも
スガシカオはベトナム戦争がまだ激しい時に生まれた。ご両親がどう考えたか全く分からないが、本名は菅止戈男である。止戈男はまさしく、争いを止める男の意味だ。
22年三月現在、ロシアのウクライナ侵攻は継続中。こじつけではあるが、明日という希望がなかなか見えないウクライナ国民にとって「9回裏まさかの逆転サヨナラホームラン」が一刻も早く出てくることを期待したい。
検索は「スガシカオ サヨナラホームラン」(了)