「大リーグ見聞録」(78)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎2028年ロス五輪、野球にメジャーリーガーは派遣されるか
▽球宴で初めて話題に
 今年の米オールスターは(現地2024年7月16日)、レンジャースの本拠地テキサス州アーリントン グローブライフ・フィールドで行われた。五輪野球への大リーガー派遣問題が球宴で初めて話題になった。大谷翔平(ドジャース)、ブライス・ハーパー(フィリーズ)、アーロン・ジャッジ(ヤンキース)が参加希望を表明。MLBのマンフレッド・コミッショナーはロス五輪大会組織委のケーシー委員長と会談を持ったと報じられた。
 私は過去、五輪直前に行われたオールスターを何度か取材した。2008年、北京五輪前のヤンキー・スタジアムでの球宴にも足を運んだが、五輪の野球について、選手も球団関係者もプレスも、誰ひとりも話題にしていなかった。野球は過去、正式競技に6度採用されたが、米国はマイナーリーグ、独立リーグ、学生の混成チームだった。
▽ロスが野球最後の五輪
 大リーガーの五輪不参加には理由がある。まずは日程。五輪は7月半ばから8月上旬で、シーズン中の真っ最中。興行的に夏休みで球団にとっては稼ぎ場。シーズン後半の戦いに向けての大事な時期でもある。派遣する主力選手数によって、チーム力の有利不利が出てくる。
 それならその間、公式戦を中断すればいいが、それも簡単ではない。選手会と経営者側は約6か月で各チーム162試合消化を取り決めている。中断となればダブルヘッダーを増やすか、日程を延ばすしかない。これは負担が増える選手会の理解が得にくい。かつてワールドシリーズを7試合から9試合に増やす案がMLBで検討された。選手会の負担が増えるとの反発で撤回された。
 高い放映権料をMLBに払うテレビ局(2023年はFOXら3局で約2380億円)も黙っていない。五輪でスター選手が抜ける試合を放送しても、視聴率も広告収入も期待できないからだ。
 選手のケガも懸念材料だ。3月のWBCですら、球団によってはケガを理由に選手を出さない球団もある。選手の代理人の反対も予想される。最終的には選手の意向が尊重されようが、大金を生む選手に万が一のことがあれば、代理人にとっても一大事だからだ。
 同じ国際大会でも五輪の野球競技とWBCはまったく異なる。後者はMLBと選手会が立ち上げた興行、賞金大会で、両者にカネが入る仕組みになっている。五輪の野球は「名誉」だけだ。
 とはいえ、まだ時間もたっぷりある。マンフレッド・コミッショナーも「(MLBの)選手会と話し合う」と言う。野球は競技地域、競技人口が少ない。そのためもともと五輪では競技採用に支持が少ない(ロス五輪も主催都市推薦で採用)。IOCも若者受けの競技を増やしている。ロスの後はいつ、五輪で野球が見られるかわからない。最後になることもあり得る。それだけに期待を持って成り行きを見つめていきたい。(了)