◎「プロ野球は、審判が9割」を読み解く(菅谷 齊=共同通信)

盛夏。でも野球は続く。熱戦と並行してジャッジのトラブルも盛んである。ジャッジはもちろん審判の仕事で、あとからグダグダ言われる面倒くさい後遺症が付いてくる。高校野球の予選での問題は最近の歳時記みたいなものだし、パリ五輪ではのっけからジャッジでもめている。
 審判はしがない商売なのかなあ、と思っているときに奇妙なタイトルの野球本が出回っているのに気が付いた。題名は見出しの通り(幻冬舎)。筆者はNPB初代審判長を務めた井野修さんである。サイドに「マスク越しに見た伝説の攻防」とある。
 奇妙な題名は、プロ野球の試合進行は審判が9割マネジメントする、ということからつけたもので、主審がプレーボールと宣言しなければ始まらないスポーツを理解すれば当たり前の話である。現実は添え物みたいな扱いでそうなっていないから、ちょっと喝を入れておこうという気があったのではないか、と勝手に想像している。
 内容は大見出し9本(9人の名投手、伝説の日本シリーズ、退場劇など)。60項目で構成されている。
 実際にジャッジしているから話に臨場感がある。たとえば「“大魔神”佐々木の4種の神器」「超一流審判の眼を持つ落合」「ホットな王監督、クールな星野監督」「殴打の前科で、恐怖のブラッグス」など。
 貴重なのは最後の「審判員のための書かれざるルール」。これは米国で発売された出版物で、いわゆる“あうんの約束事”のさわり。さらに米国審判学校での使用教科書の中身も披露している。これらを参考にすれば、試合観戦の楽しみがさらに高まることだろう。
 井野さんは審判テスト応募で貴重な合格を得た一人。ロン毛、Gパンの出で立ち、ルールろくに知らず…なのに、だ。後で「体がデカくて頑丈なヤツ」が決め手だったそうである。猛者ぞろいの選手をマネジメントする第1条件を備えていた、ということらしい。(了)