「大リーグ見聞録」(80)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎あるか、大谷、ポストシーズン初の満塁敬遠策
▽「This guy is unreal!」
手が付けられない。そんな表現がピッタリなのが、シーズン終盤の大谷翔平だった(現地9月11日から25日までの15試合で打率・417、長打率・493、本塁打7本、打点24。25日までの6試合の得点圏打率は10打数9安打の・900)。8月23日のレイズ戦で史上6人目の「40本塁打40盗塁」を達成すると、9月19日のロッキーズ戦で前人未踏の「50本50盗塁」もあっさりとやってのけた。
これにはNBAのレジェンド、レブロン・ジェームズが「This guy is unreal!」(この男はあり得ない)と投稿など、あらゆるスポーツ界を巻き込んで大騒ぎ、社会現象になっている。
ドジャースはすでにナ・リーグ西地区優勝を決め、10月1日からのポストシーズン(PS)出場を決めている。そのPSで接戦の展開で、大谷の満塁敬遠策はあるのか。
大リーグでも公式戦では強打者に満塁敬遠策は例がある。1998年5月28日、ダイヤモンドバックスのB・ショーウオルター監督がB・ボンズ(・304、37本、122打点)を歩かせた。2008年8月17日にはレイズのJ・マドン監督がレンジャースのJ・ハミルトンを敬遠。ともに9回、リードしていた場面だ。
最近では2022年4月16日のレンジャース戦で、エンゼルスのマドン監督がリードされている場面でC・シーガーを申告敬遠。両監督ともリーグ最優秀監督受賞の名将で、3試合とも敬遠したチームが勝っている。エンゼルスは大谷の2ランなどでの逆転勝ちだった。
▽「ダメージを最小限にする作戦」
プロ野球ではポストシーズンで、満塁敬遠策が検討されたことがある。1989年の巨人と近鉄(現オリックス)の日本シリーズだ。近鉄の4番はラルフ・ブライアント。打率・283、49本、121打点で本塁打王に輝いた。とくに凄かったのはシーズン終盤。優勝を争う10月の2日の西武とのダブルヘッダーで満塁弾を含む4本塁打。そのバットでチームを逆転リーグ優勝に導いた。
日本一決戦の前、巨人の井上浩一スコアラー(当時)にブライアント対策を聞いた。
「いざとなったら満塁でも歩かすよ」
試合展開によってはブライアントに押し出し四球で1点を与える。それだけそのパワーを警戒していた。
井上さんは近鉄で数字に強く、野球理論にも通じたスコアラーだった。その手腕を高く評価した巨人が井上さんを招聘。1989年はスコアラー部門の責任者だった。
結局、満塁でブライアントを打席に迎える機会はなかった。ブライアントもホームランは第5戦の1本だけだった。
ちなみに2度、満塁敬遠策を指示したマドン監督は「ダメージを最小限にする作戦」と言っている。短期決戦のポストシーズンは、1打席の重みが公式戦よりはるかに重い。MLBの数々の記録を更新、新たな伝説を作り続ける大谷。ポストシーズンの歴史にも、1ページを刻む期待がふくらむ。(了)