「記録の交差点」(17)-(山田 收=報知)
第17回 佐々木朗希⑥
今回は、奪三振率にまつわる話を書きたいと思う。奪三振率とは、1試合完投(9回)した場合、どのくらいの三振を取っているか、を表す数字である。奪三振率=(奪三振数)÷(投球回数)×9の式で算出できる。1イニングにつき、1個取れれば9.00ということになり、これが、奪三振率の1つの指標といえると思う。少ないイニングで三振を奪うクローザーなどは、比較の対象からは外し、規定投球回をクリアした主に先発投手が、このテーマの登場人物となる。
簡単に言うと、9を超えれば“奪三振力”が高いと評価される。このシリーズの主人公である佐々木朗希の投球の特長は「三振を取れる」ことにある。2024年レギュラーシーズンが終了した今、改めて彼の残した記録を眺めることにした。
佐々木の奪三振率は、2021年=9.66、22年=12.03、23=13.35、24年=10.46 とすべて基準の9超えで、4シーズンの通算では、11.52と極めて高い数字を残している。ところが、既に書いたように、いずれの年も規定投球回(143)をクリアしていない。最も投球回数が多かったのは、完全試合を達成した22年の129回1/3で173個の三振を奪っている。
この年のパ・リーグ奪三振王は、山本由伸(オリックス)で205個、奪三振率は9.56であり、佐々木は大きな差をつけている。しかしながら、規定投球回未到達で同じ土俵に立てなかった。記録の世界に“if”はないだろうが、もし、佐々木があと13回2/3を投げて、三振ゼロだったとしても、10.89という奪三振率になる。
24年にしても、パ。リーグの奪三振率トップは、今井達也(西武)で9.71。セリーグは高橋宏斗(中日)の8.14であり、朗希の数字は規定回数未満ながら、キラリと光る。繰り返し言うようだが、1度は規定投球回に到達、奪三振王(数も率も)を手にしてからでも、メジャーに行くのは遅くない。
では、歴代のシーズン奪三振率王を見てみよう(もちろん規定投球回到達者)。1位は、“お化けフォーク”で海を渡った千賀滉大(24年のメッツでは苦労した)が2019年(ソフトバンク)にマークした11.33(180回1/3で277K)。2位も翌20年の千賀で、11.08(121回で149K=コロナ禍で試合数が少なく規定投球回は120だった)。
以下③石井一久(ヤクルト、1998年)=11.06(196回・241K)④野茂英雄(近鉄、1990年)=10.99(235回287K)⑤大谷翔平(日本ハム、2015年)=10.98(160回2/3・196K)⑥江夏豊(阪神、1968年)=10.97(329回・401K)と剛腕が並ぶ。尚、国内の現役では2017年の則本昂大(楽天)の10.76(185回2/3・222K)が最高(歴代7位)だ。
野茂は90年以外でも、91年(奪三振率10.67)、93年(10.22)と3度の“10点超え”を残し、ロッテ時代の伊良部秀輝も93年(10.22)、94年(10.39)、95年(10.60)と3年連続でマークしている。2人とも今では伝説化している200イニングを突破しての大台乗せである。となると329回を投げて401個もの三振(もちろんプロ野球記録)の山を積み上げた江夏豊という投手は、まさに怪物。68年から4年連続9.00以上という記録を残したドクターKだった。この連載のエンディングは、2回連続で江夏の凄さで飾られた。次回も奪三振率の続きを。=記録は2024年シーズン終了時点=(続)