「いつか来た記者道」(77)-(露久保 孝一=産経)

◎野球を盛り上げる大統領「好投手」

日米ともに国家の新しい指導体制ができ2025年へ船出する。首相および米大統領は野球と深いつながりを持ち、政治とともに野球を愛するリーダーとして歴史をつくってきた。

24年に退任した岸田文雄前首相は、子供の時から広島の熱烈なファンだった。その支援者は内閣支持率が低下して8月14日に首相辞任を表明した。カープは首位を走っていたが、9月に入り急に負けが込み4位に転落してしまう。「岸田さんのせいにはしたくないけど、首相を辞めると言った時、カープにはいやな予感が走った。岸田が失速して、カープまで『歴史的大失速』しちゃった。悲しすぎるよ」。広島ファンの旧友は嘆いた。

22年に凶弾で倒れた安倍晋三元首相は、学生の時からヤクルトファンだったと公言していた。巨人の長嶋茂雄終身名誉監督と松井秀喜氏に13年、国民栄誉賞を贈ったが、「実はアンチ巨人だった」と冗談交じりに話した。ヤクルトファンからは「正直に言ってくれた。うれしいね」と喝采を浴びた。

米大リーグに目を向ければ、野球好きの大統領は目白押し。岸田氏と同じように24年大統領を辞任したジョー・バイデンは若い頃、遊撃手のプレーヤーだった。長男がリトルリーグの選手だった時には、チームのコーチを務めた。

▽「名プレーヤー」だったブッシュ親子

歴代の野球ファンとしては、レーガン大統領が有名である。1989年、日本シリーズの巨人―近鉄戦で始球式を務め、マウンドの手前から投げて打者大石の背後に「失投」した。無念の大統領は投げ直してスタンドから拍手を浴びた。同氏は30年代にカブス戦でラジオの実況をこなし、さらにドジャースタジアムの新球場建設の推進運動に協力して知名度を高めた。野球への愛着心が、のちの大統領への華やかな道につながったかもしれない。

野球選手として最も上手かったのは、野球評論家の間では、ジョージ・H・W・ブッシュ第41代大統領と、ジョージ・W・ブッシュ第43代大統領の親子コンビだといわれる。父の41代はイェール大ブルドッグス時代に一塁手として活躍した。89年、ボルティモアの本拠地開幕戦で始球式に登場し、マウンドから投げた最初の大統領となった。息子の第43代はテキサス・レンジャースの共同オーナーを務めた。2009年、日本シリーズの巨人―日本ハム戦で始球式をおこない、マウンドから見事な投球をしてその実力を披露した。大統領として始球式で投げた回数は歴代最多の11回にのぼり、そのほとんどがストライクだったと伝えられている。

大リーグでは、1910年にウィリアムス・H・タフトが現職大統領として初めて始球式をおこなって以来、大統領の開幕戦始球式は伝統となり、110年以上にわたり続けられている。国の最高指導者がプロ野球を愛し、その姿をマウンドから観衆とマスコミを通じて全国に伝える。偉大なる政治家の後押しによってメジャーは、開幕戦から盛りあがる。日本の指導者にも、マウンドに立って野球の魅力を強力にアピールしてほしいものである。(続)