「大リーグ見聞録」(81)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎名将はどこへ行った?
▽ビッグデータと資金力
日米ともシーズンオフは人事の季節だ。MLBでは3球団で監督交代があった(10月28日現在)。いち早く新監督を決めたのがシーズン途中で失速したマリナーズ(ア・リーグ西地区2位)。8月23日(現地)、サービス監督を解雇。OBで捕手として活躍したダン・ウイルソンを後任に抜擢。打撃コーチはやはりOBで、DHとして活躍したエドガー・マルティネス。ともに殿堂入りした名選手で、MLBでは珍しいスター選手OB内閣だ。
テリー・フランコーナを招聘したのはレッズ(ナ・リーグ中地区4位)。今季のチーム打率が30球団中26位。完封負けが16。接戦に弱かった。期待の若手が揃っているので、ワールドシリーズ2度制覇、監督歴23年で1950勝(1672敗)の名将に再建を託すことになった。
ホワイトソックス(ア・リーグ中地区5位)。8月初めにグリフィル監督が解任。コーチのクレイディ・サイズモアを暫定監督にした。球宴出場3度、2008年には30本30盗塁を達成した名選手。「クラブハウスで一番尊敬されている一人」(ゲッツGM)と当初は次期監督含みだったが、チームは浮上せず、外部招聘に方向転換した。すでに数人の候補をリストアップ。面接を行っているという。
MLBの野球はビッグデータと資金力重視の傾向が強くなる一方だ。今季もリーグ選手権に残った4球団のうちメッツ、ドジャース、ヤンキースが年俸総額のトップ3。下位10球団では唯一、ガーディアンズ(21位)が残っただけ。(米コッツ・ベースボール・コントラクツ調べ)。フランコーナ監督はともかく、名将の出番はますますなくなるようだ。
▽生え抜きOBと内部昇格
プロ野球でも事情は同じだろう。今オフは5球団で監督交代があった。楽天・三木、オリックス・岸田、西武・西口、中日・井上の各新監督は二軍監督あるいは投手コーチが内部昇格。阪神・藤川監督は生え抜きのOBだ。いずれも前監督の勇退時点で後任として名前が挙がり、間もなく決定した。
MLBと異なり、プロ野球ではシーズン終了後、各球団とも秋季キャンプを行う。それに間に合わせるためもあってか、監督人事は段取りがいい。とはいえ、もっと時間をかけ、幅広く人材を求めてもいいのではないか。生え抜きOBやユニホーム組の昇格は「チーム事情が分かっている」のが利点とされているが、中日・立浪監督(2022~24年、最下位)、西武・松井監督(2023年5位、24年シーズン途中最下位で休養)を見ると、必ずしもメリットになっていない。
野村克也(南海=現ソフトバンク、ヤクルト、阪神、楽天)、星野仙一(中日、阪神、楽天)、広岡達朗(ヤクルト、西武)といった、手腕を買われて複数球団で指揮を執り、優勝に導く監督もいなくなりなった。5人の新監督を含め、12球団の現場トップはすべてOBだ。
「公式戦で監督の采配で勝てるのはせいぜい7、8試合」と言われるが、かつて広島で3度日本一の古葉竹識を取材したとき、監督はこう答えた。
「チームの勝敗における監督の比重はもっとずっと大きい。試合の采配だけではない。チームは監督が作るのだから」(了)