「いつか来た記者道」(78)-(露久保 孝一=産経)

◎AI審判対長嶋茂雄、稲尾和久

 人工知能のAIをめぐって、私の周囲からいろんな声が聞こえてくる。マスコミ、経済界では話題花盛りだ。

 プロ野球界では、「審判の間でAIを使うかどうかで話し合いがおこなわれている」と初代NPB審判長の井野修氏は話した。すでに韓国プロ野球委員会は2024年から自動投球システムを導入している。一定の位置に設置されたカメラと軌道追跡システムが投球ボールの軌跡からストライク、ボールを判別する。このAIプログラムが通信でホームプレートの後ろにいる球審に伝えられ、コールするのである。韓国では「ロボット審判」と呼ばれるこの方式は、おおむね順調におこなわれているという。

 AI企業社員によれば、基本的にはストライクとボールの判定にAIを導入するというのは、ストライクゾーンを通過したかどうかをAIが判断することだという。「AI審判によってジャッジは正確なものになる。しかし、極端なことをいえば、ゾーンをかすめていれば落下してワンバウンドになっても、内外角に大きくそれてもストライクになってしまう。このようなことは起こり得る。またハーフスイングの判定だって難しい」と指摘する。

 昭和時代、巨人のスター長嶋茂雄は審判をほめるのがうまく、その誘惑で自分に有利な判定をしてもらったことがあった、とヤクルトの捕手は明かした。西鉄の「鉄腕」稲尾和久は、得意のスライダーを外角ぎりぎりにストライクゾーンに投げ、次の投球から5ミリずつ外角に外していって審判の目を惑わし、外角に少し外れるボール球でもストライクのコールをさせた。長嶋のようなユーモアと人間味あふれる審判との関係、稲尾みたいな球審の目を幻惑させる高等テクニックなどAIでは現れようもない。

▽少年棋士たちも人間同士の戦いをしたい

 AI審判やAI選手、AI将棋はどこまで進むのか。人間にとって代わることが可能なのか。24年11月、全国紙の投書欄に次のような意見が載った。千葉県の68歳の中学教員からだった。

 「将棋部の顧問として週1回、生徒たちと対局を楽しんでいる。パソコンを使っての対局もできるが、部員たちは一様に人間同士の対局のほうが楽しいと言っている。目の前の相手に負けるのは悔しいが、勝ったときの喜びはまた格別なのだという。コンピューターゲーム全盛の時代に、昔ながらの盤駒でせっせと将棋にいそしむ生徒たちを、私はとてもいとおしく思っている」

 教師の主張は明快である。ロボットやAIを相手にたとえ勝ってもうれしくない、と少年たちは言っている。プロ野球の審判に関しては、判定をめぐって暴力行為や激しい抗議、暴言など審判が被害を受けた事件が数多くあった。不正行為は悪だが、審判のジャジに抗議するのはプレーへの緊張感を増す作用はある。球審のジェスチャー入りのコールがファンを喜ばせる一面もあった。それも人間だからこそのしぐさであり、喜怒哀楽の対決に通じた。それを思えば、AIは「人間ドラマ」とは対極をなす魔手なのか。次回もこのテーマで書きます。(続)

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