「大リーグ見聞録」(82)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎MLBスアジアムの思い出
▽手を差し伸べたヤンキース
今オフ(2024年)のMLBはスタジアムの話題が目に付く。10月に大型ハリケーンがフロリダ州を襲い、タンパベイ・レイズの本拠地トロピカーナ・フィールドの屋根が破損。修復に時間がかる上に、その費用が5570万ドル(約84億円)。来季の球場探しを迫られた。
手を差し伸べたのがヤンキース。タンパにある、マイナーチームが使うジョージ・スタインブレナー球場を年間1500万ドル(約23億円)で貸し出した。収容人員は1万1000人だが、今年のレイズの1試合平均入場者は1万6515人だから、大きなマイナスにはならないだろう。
1990年に球団拡大でレイズが誕生したとき、ヤンキースのジャージ・スタインブレナー・オーナーは猛反発。レイズの地元タンパはヤンキースのキャンプ地だったからだ。レイズはヤ軍と同一リーグ同一地区。「縄張りを荒らされた」とばかり、ことあることにレイズに冷たく当たったという。オーナーが息子のハルに代わっているとはいえ、隔世の感がある。
11月にはアストロズのミニッツメイド・パークの命名権を日本の空調メーカーのダイキン工業が買った。「ダイキンパーク」となり、期間は15年。地元に工場を持つ同社が知名度アップ、販路拡張を狙ってのことで、日本企業としては初めてだ。
2004年に同球場で観戦したが、こじんまりとしたドーム球場で、外野席の勾配が急だったことが記憶に残っている。
▽内陸なのにパイレーツ
これまで20のMLBの球場で取材、観戦した。中でも一番、印象に残っているのは2006年に訪れた、ピッツバーグ・パイレーツの本拠地PNCパークだ。特にバックネット裏からの景色がすばらしい。センター後方に黄色いロベルト・クレメンテ・ブリッジがかかり、さらにその背後には摩天楼がそびえ立つ。外野スタンドが低いので、デーゲームのときはひときわ美しく見える。
ピッツバーグは川の街だ。市内には3本の川が流れている。球場はアレゲニー川のほとりにある。市内のダウンタウンとスタジアムをつなぐのがその橋だ。私も何度か渡ったが、スタジアムに近づくにつれ、市街地の喧騒が消え、仕事の悩みも忘れ、別天地に向かっていくように気持ちになった。
ちなみに内陸(ペンシルベニア州)にあるチームなのに、なぜ、パイレーツ(海賊)なのか。球団フロントに聞くとこんな答えが返ってきた。
「詳しい経緯はわからないが、昔、球団を買収したとき、そのやり方があまりに強引で、『海賊みたいだ』と言われたからだそうです」。(了)