「いつか来た記者道」(79)-(露久保 孝一=産経)

◎新聞記事がAIにより偽情報に化ける?

 生成人工知能AIと新聞記事との関係はどうなのか、と考えれば多くの問題を孕んでいる。前回は「AI審判対長嶋茂雄、稲尾和久」というタイトルで書いた。今回は、記事について考えを述べたい。プロ野球を含めスポーツ競技のマスコミ報道は、大きく分けて、新聞、テレビ、インターネット配信でおこなわれている。かつて昭和時代の主役は新聞、ラジオ、テレビが主体であったが、21世紀に入りラジオの聴衆者が激減し、現在はインターネットが大きなウェートを占めるようになった。

 新聞は、購読者が減ったとはいえ、その信頼はナンバーワンであり、影響力は大きい。この新聞の信用と魅力と価値を損なうような存在が生成AIなのである。端的にいってしまえば、インターネットのAI記事は、新聞記事をたやすく引用して、面白いところを寄せ集めて都合のよいストーリーを作ってしまう。自らは取材せず、いわば新聞記事を見てこたつの中で記事を書き上げているようなものだ―こんな批判が出ている。そう言っているのは新聞界だ。情報源は怒っている。

 日本新聞協会は2024年12月18日、AIの新聞への権利侵害について厳しく指摘した。政府が策定する「知的財産推進計画2025」に対する意見を公表し、「生成AIによる著作権侵害を防ぐためには新たな法整備が必要だ」と訴え、「知財保護の強化は偽情報対策や国際競争力の維持にもつながる」と強調した。

▽日本新聞協会が怒り、ただ乗り防止策訴える

 例えば、ウェブ上で「ヤクルト・村上宗隆は完全復活するか?」と検索したとする。ヤフーやグーグルなどの画面には、その問いに答えるようなさまざまなAIを組み合わせた記事(コンテンツ)が現れる。ウェブ上の検索に連動させてAIが回答を生成するサービスは「検索連動型の生成AIサービス」や「検索拡張生成」と呼ばれる。「その情報源として、報道コンテンツを無断で利用しているうえ、記事に類似した回答が表示されることが多く、著作権侵害に該当する可能性が高いと言えます」と新聞協会は問題視する。そのために、同協会は生成AIの事業者に対して、報道コンテンツを生成AIを利用する場合には許諾を得るよう繰り返し求めてきた。しかし事態は一向に改善されないままサービスの拡大が図られていると断定し、政府に法整備を求めたのである。

 新聞社、通信社のニュースコンテンツは、取材対象者に面と向かって話を聞き、それを基にした原稿は事実に誤りがないように編集責任者が何重ものチェックをして、高いコストをかけて読者に提供する。それこそ、「夜討ち朝駆け」「靴底を減らしながら」苦労して取材した結果の記事なのである。新聞記者は監督の解任、新監督獲得、大物選手トレードなどの真相を鋭く、あるいは投打のヒーローに密着して取材合戦を展開して記事にしている。そんな果実を、なんの努力もせずに横から盗み取るようにして生成AIの記事に化けてしまえば、記者の苦労は水泡に帰する。

 確かに、生成AIのコンテンツを見れば、検索に沿った幅広い記事に出合えるし、面白く読める部分は多い。それを信じているユーザーもかなりいる。しかし、それらの記事はもともと新聞、通信あるいはテレビ、雑誌記者が取材を基にした素材であることを認識してほしい。生成AIについては、まだまだ多くの問題を含んでいるので、今後も折に触れ、わがWebサイトで追っていきたい。(続)