「たそがれ野球ノート」(20)-(小林 秀一=共同通信)
◎ボールが飛び出すネット
東京・築地市場跡地の再開発計画が明らかになった。再開発を担う事業者は11社の企業連合。三井不動産を代表に大手建設会社のほか、面白いのは読売新聞と朝日新聞がめずらしく肩を並べて参加している。
これまでに聞いていた通り、再開発の目玉は5万人を収容する多目的スタジアムで、2032年に誕生する。巨人が東京ドームからここに移転する案もあるが、読売サイドは移転はスタジアム建設の前提ではないというというから、今後の交渉、調整に注目したい。
球場の新設や改装といった話を聞くと、ついつい消えていった球場や記者席の思い出にしたってしまう。以前、この欄で書かせていただいたのはカープ初優勝時代の広島球場。記者席はネット裏スタンドの最上段にあって、仕事道具や電話機を持ってファンの間をすり抜けながら狭い階段を上がっていく。その途中で「ええ記事、書きんさいや」と激励を受け、コップ酒の差し入れを丁重に断るのが試合前の日課だった。
私が“びっくりベストワン“を問われれば、文句なしに青森・八戸の球場を挙げる。
到着後、フィールドを見渡してまずびっくり。外野のフェンス(当時はむき出しのコンクリート)の一部が外側に傾いている。前年の地震の影響だったが、フェンス際でバウンドした打球はほとんどエンタイトル二塁打になってしまう。試合前に両軍監督と審判団が外野へ向かい念入りに打ち合わせをしていたことは覚えているが、実際にどれだけ試合に影響があったかは記憶にない。
そして記者席。ネット裏に急ごしらえの机とパイプ椅子。屋根はないので雨が降って来ないように祈るしかなかった。さらに驚かされたのは、球場職員に「気を付けてくださいね」と注意されたバックネット。よく見ると金網が錆びていて、鋭いファウルボールが当たると抜けて飛び出すことがあるという。幸い自分も周囲も被害はなかったが、1球1球、試合から目を離すことはできなかった。
この公式戦の主催は今やエスコンフィールドの主役、日本ハム。当時のピチピチ駆け出し記者は、今やたそがれてこの姿。まさに隔世の感。(了)