「記録の交差点」(20)-(山田 收=報知)

◎第20回 宮西尚生②

 正直申し上げると、私はナマで宮西の投球を見たことがない。画面を通して見た第一印象はしなやかさである。プロ野球記録の407ホールド、412ホールドポイントを始め、パ・リーグ記録の14年連続50試合登板、歴代4位となる869試合登板…。その積み重ねた数字からは、パワフルな剛腕、あるいは鉄人というイメージを勝手に抱いていたが、それは違った。

 もちろんタフではある。180㌢、80㌔というサイズは現在の投手としては平均的だが、その体から吐き出すパワーが、私にはしなやかな強さに見えるのである。それは投げ方から来るのかもしれない。関西学院大から07年大学生・社会人ドラフト3巡目で入団した直後の春季キャンプでオーバースローからスリークォーターに変えたことが、1軍定着のきっかけになったという。

 球種はストレートとスライダーの2本柱。2024年からはチェンジアップが加わったが、最強の武器はスライダー。左右打者に関係なく、抑え込めている。三振をどんどん奪うようなイメージはないが、奪ったアウトの内訳(フライ・ゴロ・三振)を見ると、興味深いことが見えてくる。2年目の2009年から三振の割合が41.4%35.8%35.9%3年連続で1/3以上。勝手な想像だが、若さを武器に力の投球だったのだろうか。

 12年から18年までの7年間は2532%と打たせて取る投球術を磨いた期間だったか。

19年から3年間は、36.7%38.9%39.5%とまた三振の割合が増えている。とくに21年は、奪三振率も9.95と非常に高い。しかしながら、この21年は、9年間続けていた20Hが止まり、防御率も3.65でルーキーだった08年(4.37)以来の悪い数字だ。三振が好調のバロメーターにはならないタイプで、効率よくアウトを取っていくのが持ち味と見た。

 あくまで数字からしか想像できないのだが、宮西のベストシーズンは2019年と思える。私がセットアッパーを評価する際、シーズンの自責点がヒト桁、与四球率、防御率がともに1点台、被打率が1割台という基準を置いている。

 その基準を宮西がクリアしたシーズンは、23Hをマークした2010年(自責点9・与四球率1.70・防御率1.70・被打率.179)、37Hだった18年(自責点9・与四球率1.95・防御率1.80・被打率.191)、自己最多の43Hを残した19年(自責点9・与四球率1.14・防御率1.71・被打率.186)の3シーズン。いずれも素晴らしい内容で、1819年は当然のごとく最優秀中継ぎ投手賞を獲得している。

 この賞を初めて獲得した16年(42HP)は、自責点8・防御率1.52・被打率.175といずれもキャリアハイだったが、与四球率が4.18と結果的には荒れた投球だったのだろうか。まあ、山あり谷ありのセットアッパー人生を、こんな重箱の隅をつつくような分析で表してしまって申し訳ない。でも、大卒で今季18年目。肘を3度傷めながらも毎年投げ続け、20256月に40歳を迎える左腕には敬服するしかない。直近4シーズン、20H未満に終わっているが、あとどれだけホールドを積み重ねられるか。

 そんな宮西が目指すという本当の鉄人であり、野球殿堂入りしたばかりの岩瀬仁紀投手に次回は迫ってみようと思う。=記録は2024年シーズン終了時点=(続)

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