「たそがれ野球ノート」(21)-(小林 秀一=共同通信)
◎歴史つくった地方紙
テレビのスポーツコーナーを見るたびに「あれっ」とつい声が出てしまう。日本の野球マスコミはプロ野球12球団の情報より、遠いアリゾナからのドジャース情報を優先的に扱っている。この現象はいかがなものか、と議論を吹っ掛ける材料もエネルギーも用意できていないので、ここでは取りあえず敬遠しておきます。
日本のキャンプだよりがさみしくなればなるほど、過去の思い出はより輝きを増してくる。ちょうど1年前のこのコラムでも触れさせていただいたが、かつて高知県では関西の人気2球団、阪神(安芸市)、阪急(高知市営・東部)が長いことキャンプを張っていた。
約一カ月間、見学を兼ねた観光客や長期滞在する報道陣によって生まれたインバウンド景気を市内繁華街は喜んだ。最終週の土曜日、日曜日には両チームが交互にキャンプ地の球場でオープン戦を行うのが恒例になっていた。そこに西武も球団誕生2年目から春野町でのキャンプを始め、3球団集結となった。
それぞれの球団担当の報道陣が取材合戦を展開するなかで、ほかではあまり例がないことだけに、書き残しておきたいのは、地元新聞社の高知新聞の取り組みだ。
シーズン中、ほとんどプロ野球を取材する機会はない。しかし、3球団が訪れる2月の間だけ、同社は運動部記者から担当を決め、球団に登録をした上で、毎日、キャンプの取材に派遣した。彼らはたちまちハンデを克服して、同行記者たちに負けぬ取材を展開。地元や近県の出身選手だけでなく、監督や中心選手と信頼関係を築いた記者もいた。
通常、こういう状況で地元新聞の自社記事はご当地でのイベントとして、社会面扱いになるものだが、高知は在京紙、在阪紙に負けない記事を運動面に独自展開していたことには何度も驚かされた記憶がある。
今は昔。高知でキャンプを張る球団は皆無になった。しかし、高知新聞運動部のキャンプ取材は輝かしい歴史として残っている。(了)