「インタビュー」柴田 勲(8)最終回-(聞き手・露久保 孝一=産経)
◎柴田、広瀬、福本のあとに近本が現れた
―柴田さんは通算579盗塁を記録し今でもセ・リーグの歴代1位である。セ・パ合わせると歴代3位となり、1位は福本豊さん、2位は広瀬叔功さんです。この2人は、どんな盗塁をしていましたか?
柴 田「僕と広瀬さんは、余り無意味なところでは走っていない。広瀬さんは、俺は盗塁に魅力は感じないと言った。僕もその考えだ。まずバッティングで神経を集中して立ち向かう。投手と対決して打つ、というこの感覚がやはり一番なのだ。ヒットを打って、盗塁はそのあとになるから…。福本の場合は、自由に走る機会が多くあった。僕には、王(貞治)さんが打者の時には走るなというサインが出た。僕が一塁から盗塁して二塁に行ったら、一塁が空いちゃう。そうなったら、王さんは敬遠されちゃう。だから、一塁にいて『盗塁禁止』だった(笑)」
<通算盗塁数のプロ野球記録は1位・福本の1065、2位・広瀬596、3位・柴田579となっている>
―柴田さんは1981(昭和56)年に現役引退した。その4年前に、巨人に松本匡史選手が入団している。松本さんはのちに盗塁数を増やし、柴田さんの後継と目された。松本選手はどんな選手でしたか?
<松本選手は82年から2年連続盗塁王に。83年の76盗塁はセ・リーグ最多となり、通算342盗塁を記録した>
柴 田「選手として働いた期間が短かかった。盗塁王といっても、やはりバッティングが良く、ヒットが打てるということが必要条件だ。盗塁王として、よく『柴田、広瀬、福本』の3人を並べていわれるが、松本は3人と比べてバッティングが問題だった。やはり、10年以上レギュラー選手としてプレーしないと、本当のスペシャリストにはなれないし盗塁王にもなれない。その点、松本にはちょっと足りないところがあった。もっとできたと思うけどね」
―柴田さんを追うとしたら、現在ではどのプレーヤーがその候補か。
柴 田「阪神の近本(光司選手)が僕の記録を抜くかもしれなという予感がするね。ヒットメーカーとしての打撃センスが高く、打って走れる良きプレーヤーだ。学生の時は投手だったから、僕と似ている」
<近本選手は2019年にプロ入団し24年までの6年間で5度盗塁王に輝いている>
-柴田さんは横浜の小学生時代から長い野球人生を歩んで来た。柴田さんの野球はどんなものでしたか?
柴 田「人はよく『努力したから』とか、『猛練習を繰り返したから』とか、必死に取り組んだ経験を語り、あるいは自慢する。僕にはそういうことは、まるでない。野球とは、基本をしっかりやる、やさしくやることなんです。いってみれば、楽しんでやるのが僕の野球です。気楽にやってきたことと野球を心から愛したことが、柴田の才能なのである。野球は、本当に面白い!」(完=最終回)