「たそがれ野球ノート」(35)-(小林 秀一=共同通信)

◎自分の死亡記事
元巨人球団代表でノンフィクション作家の清武英利氏の講演会に出向いた。
読売新聞の記者時代は警視庁や国税庁を担当してしのぎを削り、門外漢だった球団では、育成選手制度を活用してチーム強化を実現した。その後ワンマンオーナーの独裁体制を告発して解雇されたのは記憶に新しい。
私が作家としての清武氏に興味を持ったのは、「サラリーマンT球団社長」(文芸春秋)を読んでからだ。阪神、広島などの主要幹部が実名で登場し、親会社とのやり取りや役員会議の内容まで細かく触れられている。これほどのノンフィクションには、膨大な取材の蓄積があったのだろうと感心させられた。
前後して警視庁2課刑事、山一証券、トヨタエンジニアなどをテーマに刊行し、精力的な執筆活動を続けている。
代表時代には批判記事を掲載した社が取材規制されたり、記者が恫喝されたという話は流れていた。講演会を前に、当時担当していた共同の後輩にその辺を確認してみると、確かにそんな部分もあったが、筋の通った取材にはきちんと対応してくれたという。その後輩は宮崎で差しで飲んだことなども振り返り、「新聞社から異動してきて、当たらず触らず、偉くなることだけを考えている代表よりもよっぽどよかった」と評した。
講演会の対象は主にマスコミ出身者で、昨年刊行された「記者は天国に行けない」をベースに、清武氏のジャーナリズム論をたっぷりと語った。
面白かったのは、「自分自身の死亡記事を書いてはどうか」の問いかけ。
あの世に行く年齢を推測し、経歴や実績とともに、余生で達成できそうなことを記事末尾に書き加えてはどうか、という提案だ。
定年後ギターのレッスンに通い始めた人だったら「晩年はギターの弾き語りとして深夜ラジオで人気を博した」とか体力維持を目標にジム通いしている人なら「亡くなる2か月前には、念願のマスターズ陸上に出場して銅メダルを獲得した」
もちろん架空の記述だが、目標を持って生きましょうという狙いだ。話を聞きながら、書いてみるか、という気になった。(了)

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