「大リーグ見聞録」(99)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎ABSは審判の敵?味方?
▽戸惑いから使い方へ
今年(2026年)からMLBで採用されたABS(Automated Ball-Strike System、ハイテク機器でストライク、ボールを判定)。投球に対する球審のジャッジに投手、捕手、打者が異議を申し出せる制度だ(1試合に失敗するまで2度できる)。当初、選手の間には「フレーミングでストライクにした判定が、(ABSで)ボールにされるとイラつく」(ドジャース・スミス)、「最初は変な感じだったよ。なぜって自分は打者で(投球を判定する)アンパイアじゃないからね」(ヤンキース・ジャッジ)と疑問や戸惑いがあった。
ところが開幕から1か月以上が過ぎ、ABSはすっかり定着。4月20日(現地)時点で725も回行われ、53%が成功。(内訳は投手39%、捕手60%、打者46%)。選手の関心もその使い方や影響に移ってきている。「100%確信があればやるべき。50%ならやってはダメだ」(オリオールズ捕手・ラッチマン)、「カウント3-2から判定が覆るとゲームが変わる」(ブルワーズ捕手・マクガイア)などと選手がESPNなどにコメントしている。
3月31日のレッズ対ブルワーズ戦で、球審のバックナーの判定がABSで8回のうち6度もひっくり返った。その時は「引退しろ!」などとファンらから激しい非難を浴びたが、最近はそうした声は影を潜めた(ちなみにバックナーは4月26日現在では9回で7度ミス判定)。選手もファンも審判のミスを許容、制度を受け入れたからだろう。
2014年に採用されたチャレンジに加えて、ABS導入で審判の権威はさらに傷ついたはずだが、だからといって決してマイナスばかりではなかろう。誤審がすぐに訂正されることで、審判が救われることもあるからだ。
▽ボールはミットの1㍍手前
審判の誤審で今なお語り草のひとつが、アート・バッサレラのジャッジだ。1952年10月5日のドジャース対ヤンキースのワールドシリーズ(WS)第5戦。5対5の延長10回裏。ヤ軍セインの打球は二塁へボテボテのゴロ。二塁手ロビンソンは捕球に手間取り、送球が遅れた。セインは一塁ベースを駆け抜け、タイミングは完全な「セーフ」。ところが一塁塁審バッサレラは「アウト!」のコール。一塁コーチとセインは猛然と抗議。スタンドも騒然となった。だが判定は覆られなかった。試合の流れが向いたのか、延長11回に1点を取ったドジャースが6-5で勝ち、3勝2敗と世界一に王手をかけた。
翌日、騒ぎはさらに拡大した。セインがベースを踏んだとき、ボールが一塁手の1メートルも手前にある写真を、地元紙がデカデカと掲載したからだ。チャレンジもABSもない時代。審判の判定は絶対だったが、そのため逆にバッサレラは「ヘボ審判」「最悪の判定」と不名誉な名を長く歴史に残すことになってしまった。
ちなみにWSは6、7戦をヤンキースが連勝、世界一になった。(了)
