「いつか来た記者道」(96)-(露久保 孝一=産経)

◎誹謗中傷ウイルスを「完封」しよう
 プロ野球を含めスポーツの世界に「新型コロナウイルス」が広まっている? SNS(インターネット上の交流サイト)を使って、選手を誹謗中傷する悪質なコロナウイルスみたいな言葉による感染である。誰にも知られず物陰から言葉による攻撃の矢を放つ。なんともやっかいな電波感染症である。
 プロ野球界では2024年、DeNAの関根大気(たいき)外野手が被害にあった。4月26日、横浜スタジアムでの巨人戦八回裏、インコースの球が左足をかすめた。ビデオ検証の結果、ボールは体に触れており「死球」となって出塁する。このプレーに対して、関根のSNSに誹謗中傷が殺到した。「当たってねーじゃん、関根死ねよ」「あなたの家族全員が事故死で死んでほしい」
 25年6月には、オリックスの廣岡大志(たいし)内野手が阪神戦との交流試合で二塁へ滑り込んだ際、遊撃手と交錯し、危険性のある守備妨害と判定された。このあと、容赦ない悪質な言葉が寄せられる。スタンドでのブーイングばかりでなく、廣岡選手の実家である大阪の人気精肉店へSNSによるいやがらせや無言電話が相次いだ。
▽大谷「人格の否定は野球と無関係。よくない」
 アスリートに対するネットやSNSでの誹謗中傷、写真・動画による性的ハラスメントは、オリンピックでも問題になり、日本オリンピック委員会は、21年の東京五輪・パラリンピックから選手へのSNS被害対策を本格化した。26年3月には、選手が安心して競技に専念できる社会をめざすプロジェクト「リスペクション!」が発足する。推進委には元日本ハム監督の栗山英樹氏も加わった。
 26年のWBCで、準々決勝で敗れた日本代表にも誹謗中傷が浴びせられた。大谷翔平選手は「プロである以上、結果が悪かったとき、何を言われても受け止める」と語る一方、「人格の否定は野球とは全く関係ない。よくない」と訴えた。
新型コロナウイルスは感染者数不明、治療法不明で、全世界が経験したパンデミックである。身元不明のSNSはどこまで拡大するか。選手たちに、匿名でウイルスを撃ち込まれる場合を想定して、スポーツ界は一丸となって封じ込めの態勢をとらなければいけない時がくるかもしれない。ウイルスのように中傷の言葉を侵入させて人を傷つける者と、温かい讃辞で激励する善人と、投稿ボタンは同じである。なにはともあれ、まず、ウイルスの矢を放とうとする者は、立ちどまって操作をよく考えてほしいと願うばかりである。(続)

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