「記録の交差点」(37)-(山田 收=報知)

◎第37回 田中将大③
 2013年8月9日の楽天-ソフトバンク戦(Kスタ宮城)。先発した田中将大は、初回1死三塁、6回1死三塁のピンチを切り抜け、7回、被安打4、無失点の安定した投球を展開。開幕16連勝のNPB記録を打ち立てた。
 従来の開幕15連勝を保持していた斉藤和巳(05年・ソフトバンク)は、その12日前の7月28日に現役引退を発表、31日付で退団していた。斉藤の記録を抜いたことについて聞かれたマー君は「カズミさんが引退されて、電話をいただいて、こういう事ができて、カズミさんとの約束が守れたということが、嬉しいです」と答えている。
 どういうことなのか、と思った。後日の斉藤のインタビューをチェックしてみると、引退発表の直後、マー君から電話がかかってきたようだ。7月26日のロッテ戦(Kスタ宮城)
に完投で、開幕14連勝を達成。「(次の登板予定の8月)2日の日本ハム戦も勝ったら、新記録がかかった試合はホークス戦になるかもしれません」といった内容だったという。
 斉藤は「オレの記録を抜いてくれよ」と応じたようだ。夫人同士の仲もよく、夫婦で食事する間柄ということで、そんなフレンドリーな会話になったと想像する。「自分の記録が抜かれるのは寂しいが、マー君だから良かった」とも付け加えている。年の差11歳。ひと世代違うが、同じ11月生まれ(田中1日、斉藤30日)もあってか、波長が合ったとみられる。
 この2人、同じ本格派右腕でも、その生き方は対照的に映る。斉藤は、実働11年。プロ初勝利を挙げたのが5年目の2000年。その才能が大きく開花したのが03年。プロ8年目、それまで通算9勝の投手を、ダイエー・王貞治監督は開幕戦に先発起用した。この年の4月26日・オリックス戦(Yahoo!BB)から8月27日・西武戦(西武ドーム)まで登板試合16連勝をマークしている。1985年の佐藤義則(阪急)以来、18年ぶりの20勝到達で、この年、最多勝、最優秀防御率、最高勝率の投手3冠の他、沢村賞、ベストナインと賞を総なめにした。チームのリーグV、日本一に貢献。まさにエースの働きだった。
 その斉藤が2005年には開幕15連勝を達成した。15連勝以上を2度記録しているのは、NPBで斉藤以外にはいない。しかもこの年の敗戦は1のみ。9月7日のオリックス戦(大阪ドーム)で先発、5回1/3、8失点KOだった。記録にタラレバは禁句だが、この試合がなかったら、このシーズン開幕16連勝したかもしれない。
 両者が最初で最後の対決をしたのは2007年7月10日、ソフトバンク-楽天戦(福岡ドーム)だった。ルーキーの田中が、このシーズンがキャリア最終年となった斉藤に投げ勝ち、楽天が3―1で勝利した。マー君が7回、被安打6,失点1で7勝目を挙げている。
 田中のルーキーイヤーは11勝7敗の成績を残しているが、11勝のうち5勝がソフトバンクから。他6球団(セ3球団を含む)から1勝ずつで、ホークスとの相性の良さがうかがえる。
 一方の斉藤は03年から4年連続2ケタ勝利、2度の沢村賞受賞と華々しい活躍をしたが、
08年に右肩手術を受けた後は、一度もマウンドに上がれなかった。通算150試合登板、79勝23敗。驚くべきは勝率.775という数字だ。但し、NPB記録は2000投球回以上が規定で藤本英雄の.697である。斉藤は949回2/3と半分に達していない。まさに短くも燃焼した投手人生だったかもしれない。
 日米通算20年目、442試合登板、2931投球回、203勝121敗(勝率.627)の田中とは対照的に思えるのだ。=記録は2026年6月26日現在=(続)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です