◎知恵比べと力比べ(菅谷 齊=共同通信)

数秒ごとに作戦が入れ替わる。これが野球の特徴である。投手は1球投げると、次の投球をするまでに捕手のサインを確認し、納得してからフォームに入る。その間に攻撃側は打者や走者にサインを送る。最短数秒、長くて15秒ほど。
 その攻防はイニング、得点差、走者の数と位置、アウトカウント、ボールカウントによって作戦が異なる。攻撃側は相手の守備位置、守る方は打者の特徴、走者の足の速さなどを考えて守備位置を変えるし、投手も球種を決める。盗塁にヒットエンドラン、送りバント、スクイズなど、小競り合いでの点取り合戦が繰り広げられる。
 つまり“知恵比べ”なのである。
 日本で野球が根付いたのは、ひっきりなしの策の応酬が考えることを好む日本人に合っていたからである。戦国時代の戦略が好まれるのは知恵の戦いだからで、野球の戦いに戦国時代を重ねるファンが多い。昭和の時代はそれで人気を定着させた。投げ、打ち、捕る、走るに考えるが絡み合って試合に深みが出る。
 そんな野球から現在は“力比べ”になっている。打者は飛ぶボールの時代に合わせて小技よりフルスイング。投手は時速150㌔以上の速球を投げる。西部劇のような大リーグの野球とそっくりになってきた。
ホームラン打者の大谷翔平が1番、あるいは2番を打つのがその象徴である。なにしろ投手は初球からど真ん中を目掛けて力任せに投げてくるのだ。だから大谷はドカンと遠くへかっ飛ばす。日本だったら初球にストライクを投げないし、バットを振らせないボール球を巧みに使ってくるだろう。
 来シーズンからセ・リーグも指名打者(DH)制を導入する。当然、攻撃力に厚みが備わる。力の試合が増えるだろう。細かい知恵の出し合いはますます減るはずである。(了)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です