「いつか来た記者道」(98)-(露久保 孝一=産経)

◎ありがとう!グラウンドキーパー
 野球試合において、グラウンドにいるのは選手、審判だけではない。グラウンドに水をまいたり、トンボで土の表面をならしたりする「職人」がいる。選手が、ベスト状態のコンディションでプレーできるように土や芝生、人工芝を整備するグランドキーパーである。
神宮球場によく試合観戦に出かける80代の野球ファンは、選手よりもグラウンドキーパーをじっと見つめるのが、楽しみの一つだ。「てきぱきとホームベース周辺をよくならし、バッターが気持ちよく立てるようにしている。いいね」と目を細める。その男、正岡四季(仮名)は、中学生のとき、神奈川県三浦半島の自宅近くにサンケイアトムズ(現ヤクルト)の練習場があり、選手見たさによく見学に行った。1968(昭和43)の頃である。
「打撃より守備練習を見るのが好きだった。中でも、豊田泰光さんのグラブさばきがかっこよく、プロってすごいなあと感じた。その豊田さんが、よくグランドキーパーに頭下げていたのが印象的だった」
▽頭を下げて感謝した名手・豊田泰光
正岡は、ある日、年配のグランドキーパーと話す機会があり、豊田のしぐさについて尋ねた。「豊田君は『ゴロを捕りやすくしてくれてありがとうございます』と言うのだ。感心な選手なのだよ」という答えが返ってきた。あとで、グランドキーパーは70歳を超えた有名なグランドキーパーだと知って驚いた。
グランドキーパーは守備練習のちょっとした合間に、さっとでこぼこなところをトンボで平らにする。「選手がケガしないようにしているのだよ」。選手の安全を考え、好プレーを生むように気を遣っているのだなと正岡は感じ取った。自分のことより、他人のことを考える-なんと素晴らしい仕事だろう、と正岡たちはスポーツのグラウンド整備職人から「人生学」を学んだ。
正岡は、サンケイアトムズの練習を見学してから60年近くたった。神宮球場へ観戦にいく度に、グランドキーパーを見ては感慨深い思いにふける。手仕事で丹念に土をならし、白線を引き、選手が安全に気持ちよく、良いプレーができるようにしているグランドキーパーを見ては、プロ野球や大学、高校野球を支えている裏方さんに感謝の気持ちを持ち続ける。
米大リーグでは、グランドキーパーが野球殿堂入りしていると聞いた正岡は、日本でも「足元から」バックアップしている人たちを称えることが必要だな、と訴えている。(続)