「きちんと練習したかい」-星野仙一君の遺訓(高田実彦=東京中日スポーツ)
かれこれ二十数年前に、私が会社を定年になったとき、星野仙一君がゴルフのアイアンセットを贈ってくれた。
中日という仲で、星野君とことのほか仲のよかった児玉光男記者を通じてだった。そのアイアンには「1001」という数字が刻まれていた。彼が現役を引退したときに、倉敷で作って贈答品にしていたものだった。
以来、削ったり鉛を貼り付けたりして愛用していた。
ところがである。彼が亡くなった数日後に、近所の友人たちとゴルフをやった日、私は違ったクラブを持って行ってしまった。
こちらは、昨秋逝った東京中日スポーツの元ゴルフ担当だった高梨保記者の遺品である。供養のためを思った初打ちだった。
結果は、メタメタの“百獣の王”で、ブービーのその一つ上というテイタラクだった。
その打ち上げのとき、どこからか星野君の声が聞こえたような気がした。
「タカダさんよ、そのクラブできちんと練習をして行ったかい?」
練習していなかった初打ちだった。
“練習はウソをつかない”というのは、長嶋茂雄さんの名言の一つだが、星野君も、現役時代からずっと、練習々々、また練習の人だった。
「道具を自分の体にする」
両雄に共通した人生訓であり、職業訓である。
これから残り少ない人生だが、星野君の教訓を生かしていきたいと思う。(了)