第4回 センターフィールド(島田健=日本経済)

◎ストレートロックの熱い唄

▽伝説シンガーの復帰作

ジョン・フォガティ(1945年カリフォルニア生まれ)といえば、72年までクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)を率いた人気ロッカー。「プラウド・メアリー」や「君は雨を見たか」など、短期間で数々のヒット曲を生んだ。CCR解散後はソロとなったが、レコード会社との契約問題で、しばらく曲を発表できない時期が続いた。
 この歌を含むアルバム、「センターフィールド」は85年のリリースだから、復帰というか復活といってもいいほどだった。曲名はもちろん、野球の外野である中堅を表しているが、音楽の第一線、センターフィールドに復帰するということも表現したと言われている。アルバムは見事、ビルボードの1位に輝いた。

▽ルーキーの熱い思い

手拍子で始まるストレートなロックだが、内容は野球一直線。輝くフィールドを前に出番を監督に懇願するルーキーの姿を描いている。リフレインでは「出してくれ、コーチ、今日は準備万端なんだ」を2度繰り返し、「俺をみてくれ、俺ならセンターフィールドになれる」で終わる。
 この場合センターフィールドは主役ぐらいの意味だろう。3番では「こなれたグラブ、自家製のバット、下ろしたての靴」とあるので、プロではないかもしれないが、強い思いは察せられる。
 根っからの野球好きとして知られるフォガティは「これまでスポーツの歌で、ロックの辞書に載せてもいいと認定されるものはあまりなかった」と語ったことがある。ロックで野球を表現したかったようだ。
 現在では米大リーグの球場でBGMとして使われたり、選手の登場曲となったりして、米国球界では「テイク・ミー・トゥ・ザ・ボールゲーム」に次いでポピュラーになっている。

▽野球殿堂入り

2010年には米大リーグ(MLB)の野球殿堂入りを果たした。楽曲や音楽家としては初めての快挙である。
 フォガティはこの際、このナンバーを披露するときにいつも使うバットの形を模したギターを寄贈した。本当に野球が好きなようだ。93年にCCRとしてロックの殿堂に入り、05年にはソングライターの殿堂入りもしている。
 ギターで野球殿堂入りなんて、かっこいい限りである。

▽数々のオマージュ

オマージュとは過去の事績に敬意を表すことだが、この唄は野球やロックの先人を敬う曲でもある。
 1番ではロックンロール創始者の一人、チャック・ベリーの「茶色の目をしたハンサム男」という曲名を引用し、「三塁を回って、本塁目指す」という一節も使っている。フォガティの頭には黒人最初の大リーガー、ジャッキー・ロビンソンがあったそうだ。
 サンフランシスコ発の古い野球ポエム、「ケイシー打席に立つ」からは2番で「マッドビルの豪打、ケイシーも三振」と自分の出番を促すのに使っている。中堅手の先人からはウィリー・メイズ、タイ・カッブ、そしてアイドルであるジョー・ディマジオの名前を並べた。
 3番ではホームランを表すのに、名物アナウンサーの決まり文句〝tell it goodbye〟を引用している。アルバムのジャケット表紙にはボロボロのグラブがほとんど全面を占めている。野球ファンには腹一杯の楽しさが詰まっている。

▽イチローにも敬意

フォガティは10年夏にフジ・ロックフェスティバルに登場、CCR時代以来38年ぶりに来日したが、充実したボーカルとギターで観客を熱狂させ、年をとっても一貫したロッカーぶりを発揮した。
 この曲も演奏し, 何台目かのバット型ギターを持ってきていた。〝and Joe DiMaggio〟の部分は〝Don’t forget Ichiro〟と言い換え、右翼手ではあるが日本を代表する大リーガーに敬意を表していた。
 この模様はニコニコ動画で見られるので、ロックと野球、両方のファンはぜひ一見を。(了)