「時差と距離と野球」-(菅谷 齊=共同通信)

大谷翔平は米国で受け入れられたようである。メディアは名前の翔から「ショータイム」として取り上げている。二刀流に加え、童顔が人気を呼んでいる要素なのだろう。
 シーズンが進んでいくのにつれ、日本選手が必ずぶつかる難敵が日本の36倍の米大陸の広さ。移動の距離は長い飛行時間となる。それに時差が絡む。いずれも日本では体験していないもので、評論家の先生方は「疲労の大きな原因になるのではなか」と心配する。

▽1日にNY、LAでの試合を観戦

侮れないのが時差である。東部、中西部、山岳地帯、西部で時差があり、東部と西部では3時間。この時差を実感したことがある。
 東部ニューヨークのヤンキー・スタジアムで午後6時過ぎ開始のナイターを観戦し、ホテルに9時半ごろ着いた。テレビをつけると、ドジャー・スタジアムでの試合が始まったばかり。ロサンゼルスの夕方6時半ごろに始まった試合である。1日にナイター2試合を見たわけである。
 大谷が所属するエンゼルスがヤンキースと試合を行うためニューヨークに遠征するとこうなる。
ロサンゼルスを午前10時に飛び立つと、正味6時間プラス時差3時間を加えるから時計の上では9時間となり、午後7時に着く。逆の場合は6時間飛行しながら時計では3時間となり、ニューヨークを午前10時に出れば午後1時にロサンゼルスに降り立つ。ビジネスマンは東から西へ飛べば悠々と会議に出席できる。

▽1日に異なる2チームで安打

ご存知の通り、大リーグはシーズン中のトレードがよくある。
1982年、メッツのジョエル・ヤングブラッドはシカゴのカブス戦で安打を放った後、試合中にトレードを通告されると、フィラデルフィアに飛行機で移動。遠征中のトレード先のモントリオール・エクスポズに加わり、ナイターに出場して安打。同じ日に異なる2チームで安打を記録した大リーグ初の選手として残る。
 こんなこともあった。ダブルヘッダーの第2試合の途中で打ち切られ、次の試合地へ飛んだ。指定の飛行機に搭乗しないと翌日のデーゲームに間に合わないからだった。打ち切られた試合の残りは後日の試合の前に行うのだ。
時差と距離。太谷はさまざまな経験をするだろう。どんな状況に遭遇しても文句も言わずに受け入れる大リーガーたち。「すごい」と、ただ感心するのみだった。(了)