◎私の最も印象に残ったこの出来事、このプレー
2022年のプロ野球は、パ・リーグのオリックスがセ・リーグのヤクルトを破り日本一になった。20年から続く新型コロナウイルス感染が、この年はプロ球界にも深刻な影響を及ぼし、感染者が続出して公式戦が中止になったり、戦力ダウンで試合に臨んだりするチームもあった。その重くのしかかった暗雲を吹き飛ばすような快男児が現れ、熱投、豪打を見せてファンを歓喜させた。完全試合のロッテ・佐々木朗希であり、日本人最多の56号と三冠王のヤクルト・村上宗隆である。
そんな時代を背景に展開されたプロおよびアマ野球界で、記者OBクラブのジャーナリストはどんな出来事、シーンに最も印象を受けたか、各理事が意見を述べあった。以下が、それぞれのコメントである。
出席者=菅谷齊、小林秀一(以上共同通信)、真々田邦博(NHK)、高田実彦(東京中日スポーツ)、荻野通久(日刊ゲンダイ)、小林達彦(ニッポン放送)、中島章隆(毎日)、山田収(報知新聞)、菊地順一(デイリースポーツ)、玉置肇(日刊スポーツ)、安藤榮樹(内外タイムス)。司会・文構成は露久保孝一(産経新聞)が担当した。
▽お見事だった村上と佐々木
高 田 「村上が、ワンちゃん(巨人・王貞治)の年間55号を抜いたのは感動的だった(10月3日対DeNA)。もうひとり、佐々木朗希の完全(4月10日対オリックス)も高く評価されて当然だ。今年はこの2人以外、目に付いた選手はいなかったなあ」
菅 谷 「何と言っても村上。お客さんを球場に呼べる選手が出てきた。ホームランを打てる打者はなんといっても魅力的、新しいヒーローの誕生は頼もしいと感じていた。ところが、11月の日本記者クラブでの会見で、大リーグに行きたい、と言った発言は、リップサービスなのだろうが、軽すぎると感じた。せっかく王さんの大記録に挑戦する期待が出てきたのに、これから克服しなくてはいけないという課題が残っている。王さんも、来年からは厳しく投手から攻められるのでそれにどう対処するか難しい打撃になる、と言っている」
小林達 「大谷翔平、村上宗隆、佐々木朗希の活躍は群を抜いて目立った。村上は、あんなに打つとは本当に驚き。僕は順位予想でヤクルトを1位にあげその通りになったが、村上の打棒爆発までは予想できなかったです」(編集注:エンゼルス・大谷は8月9日、2桁勝利・2桁本塁打達成。ベーブ・ルース以来104年ぶりの快挙)
小林秀 「日本シリーズを記者席ではなく、スタンドから見た。生で見た村上のホームランは、迫力があり見事だった。きれいな写真も撮れた。試合前に柔軟体操を見たが、村上はすごく体が柔らかいなと感じた」
▽佐々木の八回交代は不可解
菊 地 「佐々木の完全試合には、インターネットで知ってびっくりした。僕はロッテ担当記者を4年間務めたので、完全の快挙にはことさらジーンときた。完全試合のあと、日ハム戦での八回交代は解せない。それまで完全に抑えていたのだから、ファンは再びと期待したはず。佐々木は口には出さなかったが、悔しかっただろうと思った」
玉 置 「完全試合よりも日ハム戦の交代のことが強く印象に残った。八回での交代は本人にフラストレーションが残ったと思う。本人はさらに投げたかったはずである。本人が納得しての降板ならわかるが、そうではなかったと思う。その後のオリックス戦で、佐々木は審判といざこざ(白井球審がマウンドの佐々木に詰め寄る)を起こしている。あれも日ハム戦交代が精神的に尾を引いたのではないか。監督は、選手の意欲、体力を見てバランスのとれた起用をしないといけないなと感じた」
真々田 「ヤクルト・村上と巨人・岡本和真に注目した。村上のすごさに比べ、岡本はふがいなかった。ライバル同士にこんな差がついたのは、努力の違いだったのか、精神面が違ったのか。岡本は、なんで脆いのかなと感じた。これからも見つめていきたい」
安 藤 「印象度からいえば、村上がダントツだ。若い力が出てきたのは、野球ファン層の人気上昇につながるだろう」
▽かつてなかったコロナ禍での戦い
山 田 「村上と佐々木の年であった。僕は記者時代、完全試合を見たことがなかったので、佐々木の完全を見た記者はうらやましいと思った。グランド外ではコロナの影響を受けた球界の対応策が気になった。球団の対処の仕方がまちまちだったので、今後のためにこうした事態にそなえて球界として対策を決めておくべきではないか」
露久保 「野球界全体を見ると、パンデミックに世の中が振り回され、その波がプロ、アマ球界にも波及したシーズンだった。プロでは、台風襲来や選手の道具を積んだトラックが球場に着かなくなって試合が中断になった例はあるが、感染症で多くの試合が中止になったのは野球の歴史始まって以来のこと。入場制限のダメージも受けた。その暗い社会を、佐々木、村上という若い選手が投打で明るい話題を提供したのは、すごく価値のあることだった」
中 島 「印象というより関心を持っていることがある。最近、NHK朝の連続テレビ小説でバッファローズのユニホームを着た男性が現れて、ここでも近鉄人気かなと思った。社会人野球チームに大和高田クラブがあり、その監督にかつて近鉄に所属した佐々木恭介が就いている。2022年社会人野球で2回戦で負けたが、将来は強くなりそうだ。さらにプロではオリックスが日本一になった。これらの現象を見ていると、オリックスファンが多いな、近鉄が蘇った年だなと感じた」(編集注:佐々木監督は近鉄時代に好打者として活躍、1978年に首位打者に。2016年から奈良県の大和高田クラブ監督になり、18年に全日本クラブ野球選手権で優勝している)
荻 野 「すごく印象に残ったのは、阪神の矢野燿大監督の発言だった。キャンプが始まるときに、今年限りで辞めると言った。戦争が始まる前に、連合艦隊の司令長官が艦船から降りると言うようなもの。ナインの士気は下がる。阪神の開幕9連敗の要因で、いくらなんでも無責任だと思った。村上の三冠王は立派だが、打率は3割1分8厘と低く、パ・リーグの3割打者は2人だけ。セ・リーグの最多勝は青柳晃洋の13勝。選手のレベルダウンを感じた」
(文・構成 露久保孝一=産経)