◎2023年度ミズノスポーツ振興財団ミズノスポーツライター優秀賞
『日本プロ野球の歴史 ―激動の時代を乗り越えて―』
(菅谷 齊著 大修館書店)
【選考理由】書名を超えるような内容の一冊である。400ページ超の重量感のある作品のレベルは、推薦者である慶応義塾大学池井名誉教授の「極めて魅力ある労作」という帯に抜き書きされた短い評がまさに言い当てている。
昨2023年は、3大会ぶり3度目のWBC制覇に始まり、大谷翔平の2度目のMVP獲得 に続くドジャースへの超高額移籍だけでなく、阪神タイガースの38年ぶり2回目の日本一、 プロ野球ではないが慶応高校の107年ぶりの甲子園優勝などが続き、人々の野球への関心は これまでになく高まった。本書の発行はまさに絶好のタイミングだったと言えるだろう。
裏話が満載の大小100本を超える興味深いコラムが随所に挿入され飽きさせない。巻末には年表と文献資料を一覧にしてまとめるなど配慮が行き届いており、どこからページを開いても楽しく読め、眺められる。抑制の効いた中にもリズム感がある文体でたいへん読みやすい。著者は、自らの思いを極力排除し、事実の正確な記述に努めたようだ。記者としての本分ということかもしれないが、時に感情を表に出しても構わないのではないか。恐らく唯一、コミッショナーに関して「日本のプロ 野球の場合、(コミッショナーの仕事の)多くはトラブル解消の仕事に見え、大リーグとはか なり異なる。」とご自身の意見を記している(P219)。
作者は、この書籍化をプロ野球記者50数年の取材総括と位置づけ、全力投球をしたといえる だろう。「時代の移り変わりや難題を乗り越えて今日の姿があることを、後世に伝える機会が この出版だった」と振り返るが、自らもプロ野球史に名を刻んだのではないだろうか。
「著者略歴」菅谷 齊(すがや・ひとし)1943年、東京・港区生まれ、法大卒。共同通信で巨人、阪神、大リーグなどを担当。1984年ロサンゼルス五輪特派員。スポーツデータ部長、編集委員。野球殿堂選考代表幹事を務め三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。大沢啓二理事長時代の社団・法人野球振興会(プロ野球OBクラブ)事務局長。ビジネススクールのマスコミ講師などを歴任。法政二高が甲子園夏春連覇した時の野球部員。同期に元巨人の柴田勲、後輩に日本人初の大リーガー村上雅則ら。現在は共同通信社友、日本記者クラブ会員、東京プロ野球記者OBクラブ会長。