「大リーグ ヨコから目線」(15)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎マイナーリーグの「タバコポリス」

▽大砲岡本に原監督が「喫煙禁止令」

先日、2020年東京五輪、パラリンピックで競技会場の敷地全体が全面禁煙となることが決まった。すでにある喫煙所も閉鎖あるいは撤去される方針だ。IOC(国際オリンピック委員会)は2010年にWHO(世界保健機構)と「タバコのない大会」で合意していたから当然だろう。
 ただ、プロ野球界を見ると、まだまだ喫煙者はいるようだ。
 昨年オフに原辰徳監督が巨人に復帰した際、4番を打つ若手の岡本和真(22)に「さらなる飛躍のためにはタバコをやめること」と禁煙指令を出したのは記憶に新しい。原監督は前回、巨人で指揮を執った時も、開幕投手を務めたこともある東野峻の喫煙にも苦言を呈していた。
 筆者が巨人を担当していたとき、工藤公康(現ソフトバンク監督)がダイエーから移籍してきた。春のキャンプで練習の合間にうまそうに一服したことがあった。
 工藤といえば、食事や栄養、トレーニングなど体調管理に人一倍熱心で、47歳まで29年間も続けたが、喫煙の誘惑には勝てなかったようである。そのとき
 「(タバコを)吸っている写真は撮らないでね」
 とカメラマンにお願いしていた。タバコが体に悪いことを気にしていたのだろう。
 大リーグでは、噛みタバコを使う選手はいるが、紙巻タバコを吸う選手は見たことがない。
 日本の球場ではかつてはベンチ裏に灰皿が置いてあることは珍しくなかったが、メジャーでは記憶がない。それはマイナーリーグ時代から、禁煙を徹底して指導していることと無関係ではなさそうだ。

▽選手14万円、監督10万円の罰金

 これは少し前にマイナーリーグの1Aでプレーした日本人選手に聞いた話だが、タバコに関して罰金制度あるという。
 タバコを吸うのを目撃された選手は1300ドル(約14万3000円)の罰金を徴収される。喫煙の現行犯でなくても、持っているだけでも同様だそうだ。マイナーリーグ機構の関係者が各チームを回り、抜き打ちで検査をする。
 1Aのマイナーリーグの選手の月給はせいぜい数万から十数万円。下手をすれば1月分の給料が吹っ飛んでしまいかねない。選手たちは彼らを、
 「タバコポリス」
 と呼んでいたそうだ。
罰金は選手に限らない。喫煙、あるいは所持している選手が見つかると、そのチームの監督にもペナルティーが科せられる。こちらの罰金は1000ドル(約11万円)。選手をきちんと管理、指導できていないということで、連帯責任を取らされる。だからなのだろう、監督は、
 「タバコは絶対に吸うな!」
 と口を酸っぱくして選手に注意。時には自ら選手ロッカーをチェックして回ることもあるそうだ。
喫煙が心肺機能を弱め、運動能力を衰えさせることは広く知られている。スタミナが落ち、パフォーマンスも下がる。選手は、球団やファン、大リーグにとって貴重な財産。体に悪いことを若いころから教えることで選手を守ろうとしているのである。
 日本では学生野球協会が高校、大学の野球部員、監督、部長などの不祥事を審査する審査会を毎月開き、ほとんど毎回、高校野球部員の喫煙が学生野球憲章に違反するとして、処分の対象になっている。
 岡本がいつから喫煙しているかは分からないが、選手としての将来を考えればやめるに越したことはない。原監督も禁煙指令を出すだけでなく、「タバコポリス」になったらどうか。(了)